菅総理は”死に体”だが、まだ生きている

2021年8月26日

都議選と横浜市長選の結果を受けて、菅総理の自民党内における求心力の更なる低下と衆議院選の顔としては不適格との声が俄かに高まって来ているとの報道を日々各所で見聞きするようになった。

或いは総裁選への意欲を表明し或いは菅総理支持を改めて明言するなど、党内の各人が党歴や立場に応じた態度表明をするに至っているが、先日の記事でも述べた通り、私は菅総理時代はもうしばらく続くと見ている。”1か月前”となった今でも、最重要人物である安倍氏と麻生氏には一切動きが無いため、このままの状況が続けばいかに党内で一定の存在感を有する派閥の領袖である岸田氏であろうともまとまった支持を得る可能性は低く、下村氏・高市氏・野田氏などの候補者に票が集まるという意外な展開もまず無いだろうことが予見されるからだ。

唯一、岸田氏だけはその可能性がゼロではないが、8月25日の時点で既に志帥会と水月会の両領袖である二階氏と石破氏が現総裁は再選されるべきであると明言している事から、数を束ねて総裁の椅子取りに臨んでも分が悪いように思う。

かといって、菅総理が安泰という訳ではないため誰よりも菅総理自身が総裁選・衆議院選の前に何かしらのプラス材料を欲しているのだろうが、それが何なのかを邪推するとすれば、まずはワクチン接種率の上昇や国民の忍耐の成果が新規感染者数減というかたちで表れて来ることが挙げられるのはもちろんのこと、他に敢えて挙げれば先に述べた党内最重要人物たちとその支持層の歓心を得ることで総裁選に圧勝するというプランが浮かんでくる。

後者についてその最も効果的な手段は、党員も含めた”保守派”の取り込みであるように思われる。どれほど不祥事が相次ごうとも安倍政権が憲政史上最長の政権として盤石の態勢を維持出来たのは保守派議員が根気強く支持し続けたからであり、翻っていえば菅総理の時代になってから見え始めた党内の綻びは、この保守層が新総理にはいわゆる”国家観”が無く適宜国民に向けて、また国益保護のため時に対外的にも強いメッセージを発するということが一切なかったからだろう。

では、そうすることが可能なのかどうかについてだが、それ以前に菅総理という人物は政治家として才があるのかないのか、時運を得ているのかいないのか、今一つよくわからない。その理由をいくつか後述する。

まず、安倍氏の体調不良に伴って望外の大役を得たこと、これは政治家としては幸運だっただろうが、その時期が世界的且つ歴史的な災厄禍とかち合ってしまい本来であれば一定の評価を受けて然るべき場面でもそのようにはなっていない。そして、支持率回復の好機になってもおかしくはない場面で自らそれをマイナス評価に変えてしまったり、おそらく想定外の方向に物事が動いて保守派へのアピール機会を得ることができずにいる。具体的には、東京オリンピック開会式における天皇陛下臨席の場での”落ち度”と、その直後に北方領土上陸を巡るロシア側との駆け引きにおいて、向こうが”強硬姿勢”ではなかったことで肩透かしを食らったことだ。

後者については大きく報道されていなかったためごく簡単に事情を説明すると、7月26日にロシアのミシュスチン首相が択捉島を訪問した際に厳しい態度を示すことで党内・世論どちらの保守層をも喜ばせることも可能だったであろう場面で、ミシュスチン首相は「クリル諸島(=千島列島)での投資や経済活動の活性化策として必要な設備や商品の輸入に対する関税免除地域の創設を検討している」と表明しその具体案として所得税・付加価値税・固定資産税・土地税・車両税を免除する用意があると提示したことでこれが日本企業にとってもメリットがあり共同で進めるべき当地活性化策であると印象付けた上で、更に後日ロシア側が日本との平和条約締結で隣国同士の友好関係を発展させる必要性を感じているという極めて異例の発言をした。

ここで、紋切り型の軟弱な”遺憾の意”やそれよりも一歩踏み込んだ上陸批判、或いは実現までの道のりがまだまだ長いと思われている北方四島返還を持ち出したところで間抜けに過ぎるだろうから、菅総理としてはアピールの場面にすることはできなかったと見る。

保守派からの支持を得る次の機会は8月に入り終戦記念日に向けての2週間であったが、広島での平和記念式典において核廃絶に向けての被爆国の役割について言及する重要な部分を読み飛ばすという失態を演じ、昨年と同様に終戦記念日における靖国神社参拝を見送った。靖国参拝については特に中国・韓国の強い反発が確実なものとなり敢えて実施すべきではないという国内世論の高まりと諸外国の反応が読めるため、いかに保守派の支持が欲しくともリスク回避を優先しても仕方なかろうが、平和記念式典での失敗は痛かったように思う。

そして直後の横浜市長選である。IR誘致の是非を巡って元々当地では議論が活発化していた中でコロナ禍に見舞われたが、カジノ産業自体が海外からの来訪客を誘引する力を低下させていることや、地元の港湾系有力者であり横浜市会と県議会に強い影響力を持っている藤木氏が”敵方”に回ることが明確であったこともあり、どのように関わっても或いは関わらなくても菅総理の評価が上がる可能性は実は最初から皆無であったが、硬派なメディアも大衆紙も小此木氏の敗北すなわち菅総理の敗北であると挙って書き立てて更なる追い打ちをかけているのが目下の状況だ。

だがしかし、冒頭で述べた通り自民党内の複数派閥がまとまって別候補を推す動きはなく、他政党・野合による政権交代の可能性も普通に考えれば有り得ないため、これらのことを好材料として、結論としては約2週間前の記事で述べた通りいかに”死に体”であっても菅総理時代はまだ続くだろうという私見を改めて述べて本稿を了としたい。

楽太郎

Posted by 楽太郎