おいしいカレースパゲティがあると聞いて

今年のGW期間中の主な話題は、新型コロナ変異株と東京オリンピック・パラリンピック開催への賛否であった。変異株が蔓延し易い環境・状況としては、第一に”水際”が甘くいわば変異株の直撃を受けてしまうこと、第二にこの1年間で幾度も流行が起こったエリア内でウイルスが変異する機会が増大し重症化を招いたり感染者の再生産率が上昇し易くなってしまうことが挙げられるだろう。

前者は政府・地方自治体マターとも言えるため、必然的にそれは政権・自治体首長のコロナ政策批判となり、ここ東京においてはやはりオリンピック・パラリンピック開催の是非を正念場で問うような動きへと帰結しつつある。判断のデッドラインは6月初旬とも言われているため、より一層の注目が集まることとなる。後者についてはやはり大都市圏がまさにそのような状況で、大阪は既に適切なケアをタイムリーに受けることができないという意味での"医療崩壊"に至っているという見方も出て来ている。

現時点では日本はワクチン獲得・接種レースでの後塵を拝し、極言すれば”負け組”になるわけだが、仮に新型コロナに勝利した証としてオリンピック・パラリンピックを開催したとして、それは日本が先進国の中では敗者と見なされ得るような状況であることを”恥知らず”にも自ら披露することともなりかねないため、今は「いつ、誰が、どのような文言で”中止”に言及するのか」について注目が集まるような段階へと移行しつつあるように思う。

現在入手済みのワクチンでは変異ウイルスが主体となった感染拡大を鎮静化できないのではないかという懸念も大きくなって来ているこのタイミングで9日、国産ワクチンの治験を手掛けてきた塩野義製薬とアンジェスは変異株に対しても実効力がある新型ワクチンの開発に着手したことを発表したが、市中の感染状況は尚も深刻さを増しており第四波に臨んでの情勢はかなり分が悪いものになっている。

目下特に、アルコール類の提供を自粛するようにという働き掛けにより居酒屋・BAR・飲食店等が大打撃を受けているのは周知の通りであり、都市部においては緊急事態宣言の”出口”すら見出せないばかりかこのままズルズルと長引く気配すらも漂っている。そのような5月上旬において、読者諸賢の生活圏内でも、いよいよ存続が危ぶまれるような、或いは既に廃業を決心してしまった飲食店が目に見えて増加して来ているのではないかと推察する。

私の身近なところでもこの1年で、創業が1950年代という超老舗の小料理店、20数年来贔屓にしていた寿司店、週末には好んで麻婆麺を食べていた町中華などが相次いで廃業の憂き目をみて来たが、つい先日も若い時分に幾度となく食欲を満たすお世話になった洋食店が「東京都の要請に従い時間短縮での営業となります」という告知からついに「●日をもちまして閉店いたします。●年の開店以来、地域のみなさまよりご愛顧を賜り感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました」という内容の貼り紙へと差し替えられ、とても残念な気持ちでいる。

ここでは、770円でミニサラダとスープが付いて来る、どっしりとした重量感と硬めの茹で加減のパスタに少し辛めの濃厚なルウが絶妙に絡むカレースパゲティをよくオーダーしていて、お馴染みである緑色の円筒型卓上パルメザンチーズと、これまた定番品である気難しい出具合のタバスコソースをここぞとばかりにトッピングしていただくのが20代当時の私の常だった。初めて食べたのは、ちょうどthe brilliant greenがメジャーシーンで流行っていた頃だろうか。MDに最新アルバムを入れて、特に『You & I』などの"淡さ"を感じさせる楽曲をリピート再生しながら自転車を一生懸命に漕いでアパートと駅を往復していたような時分で、駅至近の駐輪場として利用させてもらうこともあった店だ。ここでカレースパゲティを食べた後は、道路向かいにあるスーパーで半額になったチーズケーキを買って帰り、ぐちゃぐちゃに潰し平べったく成形してフライパンで焼いたものにブルーベリージャムを塗って食べていたのが今はただ懐かしい。

このような想い出はいつまでも消えはしないが、素晴らしい舞台芸術の観劇後に下ろされた幕にその場に相応しくない企業の広告が無粋にも大仰にプリントされているのを見たかの如く、コロナ禍で廃業の憂き目をみた店舗の馴染み客にとってコロナ或いはそれに係る休業要請等という理由は、どうにも遣る瀬無い気持ちにさせられる無念な別れになっているのではなかろうか。

これは人間関係も同じで、志村けん氏が他界した際に長く交流があったビートたけし氏が「何もこれ(新型コロナウイルス)で逝かなくていいのにって感じだけど……」とコメントしたのには、前述したのと同じような気持ちが込められているものと拝察している。

また、先のスパゲティ繋がりでいえば、昨年のちょうど今頃、練馬駅前のある有名な老舗喫茶店が閉店している。漫画家・あだち充氏が若かりし頃、一番奥のテーブル席で『タッチ』のストーリーを練っていた「アンデス」だ。同作においてヒロイン・浅倉南がたびたび振る舞う描写があるナポリタンは同店のものをモチーフにしているとは作者の言であり、店名の由来は店主が「いつか行きたいと思って付けたが、結局は行かず仕舞いだった場所」とのことである。

新型コロナは沢山の人達の大切な人や場所を奪いつつ各地で変異を繰り返し、ワクチンと拮抗しながらも未だ地球上の表舞台を席巻している。いつになれば主要な話題から消え去ってくれるのか見当も付かないが、少なくとも飲食をメインに扱う業種においては既に限界を超えたところで踏ん張っているところも増えて来ているだろうから、政府・自治体の迅速且つ適切な対処を改めて願いたいと申し添えて本稿を締める。

楽太郎

Posted by 楽太郎