ふとした瞬間に思い出す、あの時ホールで流れていた楽曲

先日、俳優・田中邦衛氏の訃報を受けた際に、いくつかの出演作の印象的な場面がTV・動画サイト・SNS等で紹介されるのを眺めながらそれぞれのストーリーを反芻した。

多く目にするのはやはり『北の国から』で、個人的には汚れた指で触った跡が残った一万円札が印象深い純が上京する場面、誠意って何かね?で知られるカボチャを持参しての謝罪の場面、正吉と蛍の披露宴で流された「酒くれ!」で終わる草太の声が吹き込まれたカセットテープの場面が想い出深く、不思議と前後の台詞回しまで含めて内容をしっかりと記憶していたことに驚いた。

それらのどの映像でも、古尾谷正人・菅原文太・地井武男など名優と名高い故人が人間味豊かな演技を見せており、ついに主人公である五郎までもがこの世を去ったことに思いを致した。

その折、そういえば『北の国から』に採用されている楽曲を自店の閉店予告BGMとして使用していたことがあったなと、不意に思い出した。まだ4号機を設置していた頃なので少なくとも12年以上前ということになるが、当時は複数のBGMを組み合わせて閉店30分前から流していた中の1つが「五郎のテーマ」だった。フルートとギターが主旋律を奏でる佳曲で、曲順は最後から2番目だっただろうか。

自店も含め当時のホールは大体どこも著作権遵守の意識が低く、おそらく店長やマネジャークラスの者が好む楽曲を違法ダウンロードして閉店予告BGMとして使用していた店舗が多かっただろうが、今思えば若い頃に打ち手として贔屓にしていた店舗はその閉店予告BGMや店内の雰囲気と共にずっと記憶に残っているものだ。

都内では4号機時代にATタイプ・ストックタイプ機の高い払出性能を頼りとしてスロット専門店が多く出店したがその多くは独自色を出したがり、こういった楽曲の選定においても”センスの良さ”を暗にPRしたがっている店舗が目立ったように思う。しかし、そのように”他所とは違う”、”裏をかく”ような選定をしたつもりでも、商圏内でMr.BIGの「To Be With You」やOasisの「Don’t Look Back in Anger」が被ってしまったりといった幾分か間抜けな場面もあったというのはご愛敬といったところだろうか。

私の営業圏内でも前者を使用する店舗が2つあったが、当時の自店ではエヴァ楽曲である「Komm, süsser Tod(甘き死よ、来たれ)」を流していた、などといった具合いに何かひとつの楽曲を思い出すとそれが縁(よすが)となって連鎖的に様々な楽曲が文字通り脳内に自動再生されるのを、いま懐かしくも楽しみながらこの記事を書いている。

では現在、どのような楽曲を自店で使用しているのかというと、さすがに詳述する訳にはいかないが、私自身はもうだいぶ前からこの手の営業の演出には関与していないばかりかオッサン世代になってしまうともう、デザインや楽曲のようなものにおいて、今時の客層に受け入れられたり親しんでもらえるようなものをチョイスすること自体が困難になってくる。それこそ一昔前までであれば、自分が良いと思うものを押し付けるやり方であっても社内でも営業面でもなんとか通用したものだが、このご時世それはなかなかに無理がある。

他に店内で楽曲を流す場面ということで、私が若手の頃は、開店前・閉店後の作業中にホール内で有線放送やCD・MD・カセットテープなどにより楽曲を流すことは禁止していたところが多かったように思う。主な理由は2つで、まず第一に業務姿勢が緩みがちになるから。そして第二に、設備機器の異常を察知し難くなるから、というものである。

前者については、屁理屈だとも言われそうだが、なんならそっくりそのまま反対解釈が可能である。リラックスして業務にあたれるためスタッフ同士のコミュニケーションが取れる、ちょっとした雑談の流れで意見交換が生じその中から営業のプラスとなる発想が起こり得る、テンションを上げて開店に臨むことができる、などといった具合いにエンタメ業種ならではの理由で肯定し得るといったところだろうか。

後者については、楽曲に紛れてしまうことで還元機や遊技機の異音により何らかのトラブルをイレギュラーとして察知しにくくなるというのは事実であり、店舗管理のマニュアル上どれだけ音量を低く抑えたとしても楽曲再生は不可だというところは今でも多いのではないか。

ちなみに私の管理店舗では、前述したのと同じ理由で、どのような楽曲をかけても構わないということにしている。最近では開店前の時間帯に店に顔を出すとCMで聞いたような楽曲が流れていて、これは誰の歌なのか、流行っているのかなどとオッサン管理職が若手部下に尋ねる、どの会社でもよくある一幕がその都度展開され我ながらこの手のカルチャーには本当に疎くなってしまったと痛感している。

私は30歳を過ぎたあたりから流行りのドラマ・映画・アニメの類はまず見ないしゲームも一切やらないので、パチンコスロットのコンテンツとしても搭載されている楽曲としても「良い歌なんですよ」と言われても反応が鈍くなっているため、開店前でも閉店後でもスタッフが流している楽曲で勉強させてもらっている次第である。

楽曲は時代の栞のようなもので、自分の過去にそっと挟み込まれて、いつか振り返る時に人生の様々な場面と共に自然に再生されて心を震わせる。いまホール営業の現場で流れていて何の気なしに聞いている楽曲でも、10年20年経った後、当時のことを色鮮やかに思い出す切っ掛けになるかも知れない。

ちょうど今は、全国・地方大手を中心に新卒社員が本社で導入研修を受けたり店舗に配属されたりしてキャリアをスタートさせる時期にあたる。”斜陽”などと言われもするが、それでもホール営業の現場は日々ドラマティックに変化しまた多種多様な人が出入りするため雑多な業務に忙殺されることも多く、気付いたら25歳になっていた、30歳になっていた、という者も沢山出て来るだろうと思う。

それほどまでに時間が経つのは早いもので、”経験者”としてはどうか、身近な人との関わりを大切にしながら精進して下さるように祈りたい。

楽太郎

Posted by 楽太郎