「HOTモーニングセット、用意してやるか」-打ち込み機の思い出

先日、普段出入りしている本社や管理店舗とは別所にある倉庫に出向き、リストと現在庫との照合を行った。余程の事でもない限りは、年内は最後になるだろう。

これは賞品カウンター業務で言うところの”棚卸し”のようなものであり、まともな経営規模のホール法人であれば上位役職者が自ら実施するようなものではないが、如何せん規模が小さい会社のため様々な業務が集約される立場にあり日々それらの煩雑な対応に難儀しているところである。

具体的な在庫の内容には言及できないが、一部の撤去遊技機だとか、店舗内装・外装の大掛かりなものだとか、或いは本社にも営業現場にも置いておくのは”相応しくない”と判断されるような物品を私の判断で取り置いている次第である。

年末に向かうこの時期、倉庫内は殺風景であるだけでなく非情なまでの冷気が一面に漂うためすぐに腹が冷えてトイレに行きたくなる。耳は薄焼き煎餅のように硬くなりチェック用の赤ペンを握る指先はかじかんで、40代のオッサンにとってはとても辛い時間を過ごした。

スロット機が所狭しと並ぶ一角の壁際には一般的な事務用の大型ロッカーがいくつかあり、その内のひとつは実質的に私のみ開錠権限がある。その中には、同世代のホール関係者であれば即座にイメージできるだろうが、CR海物語3RからCR新海物語にかけての時期は多くのホールで使用されていた”ある物”が歴史の証人という役割を担わされ”記念品”的に数個だけ保管してある。これは前任の営業部長からの引継ぎ物である。

本稿の主役として話題にするのは、その隣に保管してある小さな箱状の物品だ。これは4号機時代の初期から初代北斗の拳が隆盛を極めた時期にかけて”活躍”したもので、自社店舗では例えばトラッドなどのノーマルタイプ機を朝一からしっかり稼動させるための仕掛けとして使用していた。これについては業界人の読者ではなくても何となく想像が付くかと思う。”打ち込み機(モーニング仕込み機)”である。初代北斗の拳専用の同機の場合は、モードチェッカー、朝一ステージ選択機、モーニングフラグ設定機などの名称でも取り扱われていただろうか。

この打ち込み機の使用であるが、2006年(平成18年)に警察庁生活安全局生活環境課長名義で発せられた通知により明確に風適法違反とされた。通知の掻い摘んだ内容は、遊技機に接続することで本来の遊技以外の方法で内部抽選の結果に対して影響を与える装置である打ち込み機の日常的な使用は、著しく客の射幸心をそそるだけでなく、遊技機の性能に影響を及ぼす変更を無承認で行う「悪質な違法行為」であるとした上で、その製造・販売においても非常に厳しい文言で法令違反を指摘している。

ちなみに、この通知以前は、少なくともホール職域の間では「モーニングは違法」という認識は極めて弱かったと言える。何故か、それは遊技客に朝一の遊技台を選ぶ際の手掛かりを提供し、その結果として小遣い稼ぎに成功したり段階設定や展開次第では丸一日中遊ぶことが出来る者も多く居るため、営業手法の選択肢のひとつであると共にユーザー側のメリットも大きい双方両得のものだったからだ。現に当時の私の上司などは、ちょうど今日のような寒い日には、朝一から並んでくれる常連客のために「HOTモーニングセット、用意してやるか」と楽しそうに準備していたものだった。

警察庁の通知から約2年ほどかけて、つまり4号機時代から5号機時代へと移行する過程で打ち込み機は全国のホールから姿を消して行った。また製造・販売に関わる業者についても、同じ時期に群馬県太田市内のホールがモーニングを仕込んだ営業で摘発されたことが切っ掛けとなり、その店舗に打ち込み機を販売した仲介ブローカー的な立場の販社であるマルトク商事(注:現在関東圏でホール経営している同名法人とは無関係)経営者が、遊技機の不正改造・無承認変更を助長する行為として共犯を指摘され逮捕されるという事件が起こった。

本件はその後、意外な広がりを見せる。お粗末なというか、几帳面にというか、このような仲介業者としてはあるまじきことであるが”詳細に記録していた顧客管理表”の”証拠隠滅を怠り”、現品をそっくりそのまま群馬県警から押収されてしまったのである。この時点で既に、警察のご厄介になっているのは同機を使用したホール、仲介業者、製造業者でありその大阪と名古屋のマンション内に設けられた工場で密造作業にあたっていた数十名も事情聴取を受けている。では、同機を購入した他の販社やホールはどの程度の数で、具体的にどこなのかというと、そこまでの資料は手元に無くどの業界メディアにも閲覧可能な状態で保管されていない。

そのような事を、この私が何故ある程度把握しているのかというと、別に自社が購入先だったという訳ではなく、前述したロッカーの鍵を引き継いだ前任者からの伝聞である。雑談として面白いものだったかは分からないが、たまにはこういった昔のぱちんこ業界ならではのアンダーグラウンドな話でもという趣旨で書かせていただいた次第である。

楽太郎

Posted by 楽太郎