①コロナを経験した世界でIR・カジノは儲かる施設であり続けるか?②オンライン・ギャンブリングの顧客とは誰か?【IRにまつわる動向-9月版】

寄稿文

コロナを経験した世界においてIR・カジノは儲かる施設であり続けるのだろうか?

 本稿では、2020年9月期においてIR・カジノをめぐる状況はどうだったのかを振り返り整理します。

 まず、コロナ禍の長期化によって、「IR・カジノは儲かる」という前提が崩れています。世界最大のIR・カジノ市場であるマカオで営業する事業者の本年1月から6月期の決算が出そろいましたが、揃って最終赤字に転落しています。マカオですら赤字なのですから、このコロナ禍が終息しない限り、日本版IRが開業しても利益を出せるとは、どうしても考えられません。

 日本版IRの整備では、地方におけるIR開発の前提となる国の「基本方針」が定まらない状況が続いています。この基本方針は、IR開発の過程について規定したIR実施法において本年7月26日までに定める、となっていたのですが、2カ月以上が経過しても何の説明もなされていませんでした。第202回国会に中谷一馬・衆議院議員(立憲民主党, 神奈川7区)より、「コロナ禍におけるカジノを含む統合型リゾート(IR)に関する質問主意書」という題の質問主意書が提出されていました。政府は10月2日、その答弁書を閣議決定しており、そこでは基本方針の決定・公表時期について、「現時点では未定」となっているそうです。神奈川新聞などが報じています。この答弁書も近いうちに公表される見込みです。

 安倍政権の政策を継承する、としている菅政権は安倍政権と同様、コロナ終息後の「成長戦略」においても、IR・カジノを重要な施策と位置づけています。また、菅首相の地盤である横浜市は、IR誘致を表明し、有力候補地のひとつとなっています。ところで、コロナ終息後の世界においても「コロナ前」と同様に、IR・カジノは「儲かる施設」であり続けているのでしょうか。そして、この問いの前提となっている「コロナ終息後の世界」は、やってくるものなのでしょうか。「アフター・コロナ」か、「ウィズ・コロナ」か、という問いと重なります。いくつかの未来予測に示されているように、今後も少なくとも数年間は「ウィズ・コロナ」の世界が続くのだ、とするならば、IR・カジノに関する施策は見直されるべきだと思われます。

 アジアのギャンブリング産業についての専門誌「Inside Asian Gaming」は、マカオ立法府のホセ・マリア・ペレイラ・コウチーニョ議員が、マカオへのオンライン・ギャンブリングの導入を提案したと報じています。またロイターなどは、アメリカのカジノ事業者大手のシーザーズ・エンタテインメントが、イギリスのブックメーカーのウィリアム・ヒルを買収すると報じました。ブックメーカーというイギリスで発展したギャンブリングの業態は、アメリカでも主にスポーツ・ベッティングを中心に浸透しています。シーザーズは、ウィリアム・ヒルのアメリカにおける事業のみを継承し、イギリスでの事業は売却するそうです。このスポーツ・ベッティングは、リアルなスポーツだけではなくeスポーツもベッティングの対象とされるようになっています。「ランド=ベース・カジノ(物理的な施設として建設されているリアルなカジノ)」の赤字を「オンライン・カジノ」の収益が埋めるカジノ企業が現れるかもしれません。マカオの議員によるオンライン・ギャンブリングの提案や、シーザーズのブックメーカー業への進出は「ウィズ・コロナ」時代を生き残るための動きであると言えます。

 日本版IRの開発の是非については、カジノ/ギャンブリングの倫理的な「良し/悪し」や「好き/嫌い」の議論を越えて、収益性があるのかどうかを検証する必要があります。そして、世界規模のコロナ禍によってそれを判断する環境は刻々と変化しているのです。

オンライン・ギャンブリングの顧客とは誰か?

 オンライン・ギャンブリング産業にいち早く集中した国に、フィリピンがあります。その主要顧客は、アジアのほとんどのランド=ベース・カジノと同様に、中国人でした。中国は、中国の富を流出させないために、ランド=ベース・カジノではマカオに集約させ、オンライン・カジノについては統制・禁止する方向で政策をすすめています。

 日本のオンライン・ギャンブリングには公営競技があります。あまり注目されていませんが、コロナ禍によって公営競技のオンライン・ギャンブリングの売上は右肩上がりで伸びています。特に中央競馬(JRA)が好調であり、そのほとんどが無観客開催であるにもかかわらず、1月から6月の上半期の売り上げは対前年比で101.5%となっていました。この状況にチャンスを見出したIT企業のいくつかは、公営競技の決済システム事業へと次々に参入しています。日本のギャンブリング産業には、「ギャンブリング」という言葉を広く定義するならば、ぱちんこ、公営競技(中央競馬、地方競馬、モーターボート(競艇)、競輪、オートレース)、宝くじ、スポーツ振興くじ(toto)、麻雀があったのですが、コロナ禍により、オンライン投票による公営競技に集約されつつある状況が生まれています。

 オンラインであれば、国境は意味を持たないように思えます。しかしながらギャンブリングも文化や社会の在り様に大きな影響を受けています。日本人が、アメフトの試合に対して的確にオンラインでベッティングすることが困難なように、外国人が日本の競輪の車券をオンラインで購入するのは容易ではないでしょう。アメリカのスポーツ・ベッティングの主要顧客は自国民です。本節の冒頭で述べたフィリピンの事例にあるように、少なくとも今のところ、オンラインであっても国境を越えて他国の国民を顧客に設定したギャンブリングは制限されつつあり、各国のオンライン・ギャンブリングの主要顧客は自国民か、EU内のように同じ文化を共有する域内の国民に限られています。オンラインだから世界に開かれる、という状況は、ギャンブリング産業については、まだ到来していないようなのです。

寄稿者紹介

ひら・たいら氏

<プロフィール>

元ビジョンサーチ社『日刊遊技情報』の編集長(2006~2016年)という経歴を持ち全国のホール事情を長年にわたり俯瞰する一方で、ぱちんこ業界における依存問題および対策(レスポンシブル・ゲーミング)、ギャンブリング障害、IR動向等においては専門的な知識を有している、楽太郎の発信活動にとってのアドバイザーの一人。

オンラインサロン『パチンコを盛り上げるサロン』にスペシャリストとして参画している。