①安倍総理辞任・菅内閣発足とIR②コロナが残したもの【IRにまつわる動向-8月版】

寄稿文

安倍総理辞任・菅新内閣発足とIR

 本稿では、2020年8月期においてIR・カジノをめぐる状況はどうだったのかを振り返り整理します。

 8月期における最大の話題は、、8月28日にあった安倍晋三首相の辞任表明であったと思います。在任期間は7年8カ月と、歴代最長。日本におけるIR・カジノの政策化・合法化の流れは、安定的な政権運営が可能にしたものでした。とはいえ、国によるIR・カジノの政策化・合法化の動きは、昨年11月19日に国交省より「基本方針」の案が公表されて以来、具体的な進捗はなく、停滞しています。政府による「基本方針」の決定は、IR整備法の規定により、7月26日までが予定されていました。地方自治体も、その日程を前提として整備をすすめてきました。後述するように、昨年11月の時点とは、コロナの影響により、国内のみならず世界が不可逆的に変化しています。今後のIR・カジノの政策化・合法化の動きは、菅内閣の政権運営とその支持率、そしてコロナの感染状況とそれへの対応を見極めて、法改正と「基本方針」案の見直しも含めて、すすめられていくことになります。

 総理の交代とコロナによって、IR・カジノ政策が方向修正を迫られている点は、次の2点に集約できそうです。まずは、IR・カジノ政策をすすめる時期をいつに設定するのか、あるいは、どの時点まで先送りにするのか、ということです。日本国内におけるコロナの蔓延については幸い、終息、とはいかずとも、ゆるやかに落ち着きつつある、ということになっています。そのため、政策の実行時期を決めるのは、政権への影響の判断次第ということになります。菅内閣は、新政権への期待感を失わないうちに何らかの成果を残して、衆院総選挙に臨むことを目指します。次の衆院総選挙は2021年10月までに行う必要があります。その翌年には参議院選挙も控えています。2021年8月には、横浜市の市長選挙も実施されます。このスケジュールのなかで、IR政策をどこに挟み込むのか。菅政権の今後の実績とその評価にかかっていると言えます。

 昨年までと比べて、IR・カジノ政策が方向修正を迫られていることの2点目は、その投資規模です。国境をまたいだ移動者数とインバウンド需要がすぐに回復することは見込めない状況となりました。また、このコロナ禍がカジノ事業者に与えた損害は甚大です。8月中には、アメリカの大手カジノ事業者であるMGMリゾーツ・インターナショナルが無給休職中だった約1万8千人の米国内の従業員に解雇を通知したというニュースも流れました。収益性の望めないカジノ以外の施設、例えばMICEやホテル、地域観光拠点施設などは、その投資規模が大きく下方修正されることになるでしょう。自治体がカジノ事業者に期待する投資額も大きく見直す必要が出てきています。

コロナが残したもの

 前述したとおり、6月中旬から急上昇していた日本国内におけるコロナの感染者数は8月10日前後をピークとして、減少に転じています。お盆休み期間中には、「外出自粛」キャンペーンが行われていたものの、外出と消費を促す「Go To」キャンペーンが本格的に始動しました。世界の感染者数の推移を見ても、増加傾向は依然としてつづいているものの、その上昇ペースは8月に入って緩やかになってきました。

 コロナが世界に再認識させたことのひとつは、パンデミック発生時における国境の有用性でした。国境の防疫機能が、国内の公衆衛生に貢献したのです。EU(欧州連合)においてすら、すくなくとも人の移動に関して国境は復活し、国ごとの対コロナ政策の違いが顕在化しました。観光産業が主要な突破口のひとつとなっていた世界のグローバル化にはストップがかかり、もっぱらインターネットを介した販売と労働によって、世界のグローバル化は進展する状況となっています。

 IR・カジノ産業にとってコロナが残した大きな変化は、中国がカジノ市場を、「国内」と言えるマカオに限定する動きを見せ始めるようになったことです。日本が見本としたシンガポールにせよ、カンボジアにせよ、フィリピンのオンラインカジノ産業にせよ、そして日本のIR構想にせよ、IR・カジノ産業の設置は、中国人のギャンブル消費を自国に引き込もうとする動きでした。アメリカと対立する二大陣営の片方の極としての自覚を強めた中国は、自国民のギャンブル消費を自国内のマカオで完結させようとしています。アメリカと中国の対立の激化は、グローバル化とは反対方向に作用するコロナが加速させたという見方ができます。太平洋地域やアフリカに積極的に進出していた中国がコロナによって、香港・マカオ、台湾といった「国内」の経営に集中するようになったのです。

 コロナ終息後の新しい秩序がどのようなものになるのか、まだ見えていません。コロナによっていったん高くなった国境の壁が再び低くなるのか、あるいは次のパンデミックに備えて高くなったままなのか。これまでと同様、アフター・コロナの新秩序構築においても、中国とアメリカが大きな役割を果たすことになりそうです。まずは、11月3日実施のアメリカ大統領選挙の結果に注目です。

寄稿者紹介

ひら・たいら氏

<プロフィール>

元ビジョンサーチ社『日刊遊技情報』の編集長(2006~2016年)という経歴を持ち全国のホール事情を長年にわたり俯瞰する一方で、ぱちんこ業界における依存問題および対策(レスポンシブル・ゲーミング)、ギャンブリング障害、IR動向等においては専門的な知識を有している、楽太郎の発信活動にとってのアドバイザーの一人。

オンラインサロン『パチンコを盛り上げるサロン』にスペシャリストとして参画している。