①日本版IRへの逆風②コロナ第二波③自治体と観光業界の状況について【IRにまつわる動向:7月版】

寄稿文

ますます強まる日本版IRへの逆風

本稿では2020年7月期においてIR・カジノをめぐる状況はどうだったのかを振り返り整理します。

ですがその前に、8月28日に安倍晋三首相が示した辞任の意向が日本版IRに対して与える影響について、次回8月期のマンスリーレポートで触れることにはなるのですが、簡単に記しておきたいと思います。安倍首相の辞任によって、IRに関するスケジュールがますます不確定なものとなりました。日本版IRの整備は現在、国(国土交通省)による「基本方針」の策定を待っている段階です。国の「基本方針」策定後に自治体が「基本計画」を策定し、それに基づいてIR事業者を募集、選定、決定という流れになります。国の「基本方針」が出なければ、自治体は公式にすすめることのできる作業は限定的となるのです。2018年7月26日に公布されたIR整備法では、「基本方針」等の施行期日について「公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日」となっていることから、本年7月25日までに「基本方針」は出されると予想されていたのですが、それはすでに反故となりました。

政府・自民党はこれから新たな首相を決め、組閣しなければなりません。首相退陣によって衆院の総選挙が行われる可能性についても報道されています。これらの政治的「空白期間」に、「基本方針」制定のようなIRについての政治的な整備作業が行われるというようなことは、まずありません。IR汚職、コロナ、そして首相退陣と、IR整備への逆風は、ますます強まるばかりです。

7月のコロナ「第二波」

では時計を戻して、7月の動向を振り返ってみます。7月も世間は、コロナの話題に終始したと言っても過言ではないでしょう。日本におけるコロナの「第一波」は4月でした。3月3週目の3連休で全国に拡大したとされた新型コロナウイルスの感染者数は4月に入って増え続け、同月16日には緊急事態宣言が全国へ拡大されるに至ります。そして、経済活動が停止状態に入ります。全国的な自粛のなかでゴールデンウィークも終わって5月25日、緊急事態宣言は全国で解除されました。

コロナ前の日常が戻ることが期待されていたのですが、7月に入ってその期待は打ち砕かれます。7月3日、全国で2カ月ぶりに1日あたりの新たな感染者数が200人を超えます。9日には全国で300人を超え、翌10日に全国で400人を超え、23日に全国で過去最多の981人となり、29日には初めて1000人を超えて、これまで感染者の出なかった岩手県でも初の感染者が確認されました。7月中に報道により明言されることはありませんでしたが、この7月に日本におけるコロナの「第二波」があったことは明らかでした。そのようななかで7月22日、政府による「Go Toトラベル」キャンペーンがスタートしています。「第一波」を上回る「第二波」のなかにあっても「Go Toトラベル」キャンペーンをすすめるということは、政府は政策方針として「ウィズ・コロナ」の日常を選んだということです。7月22日に政府が「Go Toトラベル」キャンペーンを始めたことにより、各業界は「ウィズ・コロナ」時代の営業を確立することを政府から迫られたのだと言えそうです。

自治体の失速

日本政府による「Go Toトラベル」キャンペーンの開始は、IR関係者にとって歓迎すべき動きでした。というのも、IRはインバウンド拡大の起爆剤として期待されており、政府による観光政策の推進はIRの推進と同じ方向を向くものであるからです。ですが7月21日、誘致自治体から一刻も早い策定が求められていた「基本方針」について、政府はその策定時期を「白紙」としているという報道がなされました。この報道を受けて、すでに「基本計画」の策定スケジュールを順延することを公表していた大阪府・大阪市のほか、コロナ前のスケジュール通りで準備を進めていた横浜市と長崎県も、国に歩調を合わせて順延すると公表しました。長崎県は、7月中に予定していたIR事業者の公募開始を延期し、横浜市の林文子市長は、予定していた8月中の実施計画の発表はむずかしいと述べたのです。大阪では、大阪メトロが夢洲に建設を計画していたタワービルの再検討に入りました。コロナの感染拡大にも準備スピードを落とさなかった各自治体が、ここに来ていよいよ、その工程を減速、あるいは停止させたのです。

注目すべき観光業界の動向

コロナ以前、観光業は世界経済を牽引する産業として注目されていました。日本政府によるIR政策も、成長著しい観光業への期待があってのものでした。「インバウンド」、「コト消費」、「爆買い」などが経済成長のキーワードとなり、その需要を取り込もうと、国、地方自治体、そして民間企業ともに、産業構造と社会構造の変革を模索していました。

ですが皮肉なことに、特にインバウンド消費に最も早く適応し、依存度を高めた地域と企業が、このコロナ禍で最も大きな痛手を蒙っています。例えば、免税品店を全国展開するラオックスでは、2020年1月から6月の半期における連結決算の最終損益が139億円の赤字となり、店舗の閉鎖をすすめるとともに250人程度の希望退職者を募ることを余儀なくされました。

7月に始まった「Go Toトラベル」キャンペーンに対しては「ワイドショー」を中心とするマスコミから多くの批判が投げかけられ、十分な国内需要を喚起できているとは言えない状況にあります。第一波と違って第二波では、なぜか感染しても重症化するリスクは低く、日本社会は実際のリスク以上にコロナを恐れているという指摘があります。日本人がコロナを恐れるのは、特に地方では、感染による健康面での被害ももちろんありますが、コロナ感染による差別など社会的制裁を恐れているのだ、という分析には得心しました。地方では、東京や大阪など都市部からの来訪者に対して「コロナを持ち込むのではないか」という警戒心と恐怖感が強くあります。観光業に対する嫌悪感が醸成されつつあると言えそうです。

このような状況のなか、観光庁は日本版の「持続可能な観光ガイドライン」を策定し公表しました。観光業界だけでなく各産業において、対コロナのガイドラインが策定されています。ですがそのほとんどが、各産業の利用者や地域住民に安心感を与えるまでには至っていません。観光業は、第一にコロナ前には産業規模が他のほとんどの産業と比べて飛びぬけて大きく、第二に世界規模で今後の経済成長を担う産業であるとみなされており、第三に政府・行政機関が旗振り役を務めていたことから、今後の「ウィズ・コロナ」時代に合わせて産業構造を再編していく、また再編する責務を負っている時代の「トップランナー」として注目しておく価値があるのではないかと考えています。

8月後半に入ると、本年1月の時点で盛んに報道されていた、いわゆる「IR汚職事件」に関する捜査が新たな展開を見せ、その内容が半年以上の空白期間を経て毎日のように報道されるようになっていきます。そして、安倍首相の退陣表明です。このまま日本版IR整備の動きは、また長い沈黙と停滞の期間に入ってしまうのでしょうか。もう少し、見守っていきたいと思っています。

寄稿者紹介

ひら・たいら氏

<プロフィール>

元ビジョンサーチ社『日刊遊技情報』の編集長(2006~2016年)という経歴を持ち全国のホール事情を長年にわたり俯瞰する一方で、ぱちんこ業界における依存問題および対策(レスポンシブル・ゲーミング)、ギャンブリング障害、IR動向等においては専門的な知識を有している、楽太郎の発信活動にとってのアドバイザーの一人。

オンラインサロン『パチンコを盛り上げるサロン』にスペシャリストとして参画している。