ぱちんこが「ギャンブル等」へと変質した過程の記録vol.6

表題の通り、政治・立法の場においてぱちんこが「ギャンブル等」へと変質した過程を全6回に分けて綴ったものを寄稿していただいており、今回が最終稿です。

vol.5『ギャンブル等依存症対策基本法案』をまだご覧になっていない方は、こちらからどうぞ。

寄稿文

vol.6『「射幸性」抑制のための規則改正』

 2017年上半期において次のターニングポイントとなった日付は、パチスロ撤去に関して指導がなされた5月9日から約40日後となる6月19日であった。この直前の6月13日には、自民党と公明党の政府与党が会期末直前であった193回通常国会に「ギャンブル等依存症対策基本法案」を提出し、次の国会での継続審議となることが決定していた。加計学園問題といわゆる「共謀罪」法によって通常国会は紛糾のなかでの幕引きとなっており、7月2日には都議選が予定されていた。安倍首相と内閣への支持率が急落していた時期であった。

 この日、警察庁担当官からの招集を受けた6団体の代表者は、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法/風適法)」の法律施行規則の改正について、概要の説明を受けた。「施行規則」とは一般的に、法律運用の細則を定めたもののことである。法律の改正には国会での審議が手続きとして求められるが、規則の改正については所管省庁が任意に実施することができる。とはいえ当然ながら、規則も法体系のなかに含まれるため、違反すれば処罰の対象となり得る。

 ホールは、パチンコ(ぱちんこ)あるいはパチスロ(回胴式遊技機)といった遊技機を、試験機関(一般財団法人保安通信協会/保通協)による試験と公安委員会による型式の検定と認定の交付を遊技機が受けてから3年間、運用することができる。現行では、再び認定を受ければ、すなわち再認定を受ければ、さらに3年間、遊技機の使用が認められている(期間中に施行規則の変更があった場合などを除く)。さらに、最初の認定の3年間と次の再認定の3年間、計6年間を過ぎた遊技機についても、使用を継続することが黙認されてきた経緯があり、そのような遊技機は「みなし機」と呼ばれる。遊技機に関する規則が改正されれば、ホールで大量に設置されている旧規則下の「みなし機」の使用が認められなくなることは十分に予測される事態であった。警察庁は、ホールから撤去したいと望む性能の機種・型式を新しい規則で不適合とすれば、法的な手続きに則って、一掃することができたのである。

 6月19日の説明のなかで警察庁より示された規則改正に関するスケジュールは、同月30日まで業界の各団体より要望と質問を受け付け、7月11日から8月9日までパブリックコメントを受け付けるというものであった。パブリックコメントとは、行政機関が法律/法令や規則などを制定あるいは改正しようとする際、事前にその案を公開して、意見や改善案などコメントを広く公衆(パブリック)より求める制度である。「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行規則及び遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則の一部を改正する規則」と題された規則の改正案は、パブリックコメントが開始された7月11日に警察庁のホームページで公開された。施行日として2018年2月1日が予定されていた。

 改正のポイントは、①遊技機の出玉規制に関する強化、②出玉情報を容易に確認できる規格の追加、③ホール管理者の業務として、客への依存(のめり込み)に関する情報の提供を追加、④パチンコへの設定の導入、以上の4点である。

 1点目の出玉規制については、型式試験の試験時間に4時間を追加し、その増加率の上限を150%と定めた。以前の規則で実施されていた1時間と10時間の試験では、出玉率を現行の3分の2程度の水準となるように改めた。大当たり、あるいはボーナスの1回あたりの出玉量(払い出し個数・枚数)も、現行の3分の2程度に抑えられた。新聞報道では、この規則改正を次のように伝えた。

「パチンコ出玉 2/3に制限 警察庁 依存対策で方針」

パチンコの依存症対策として、警察庁は、出玉の上限を現行の約3分の2に抑える方針を固めた。得られる玉の数を減らして客の射幸心を過度にあおらないようにするのが狙いだ。

出玉の基準を定めている風俗営業法施行規則などの改正案をまとめ、11日から政府のホームページで公開。8月9日までの意見を募り、来年2月1日の施行を目指す。『カジノ解禁法』が昨年12月に成立し、政府がギャンブル依存症対策に取り組むことになったが、その一環の施策。(後略)」

「朝日新聞」2017年7月11日朝刊

 2点目の「出玉情報を容易に確認できる規格」とは、2017年10月から新台設置での導入が義務化されるパチスロ5.9号機で搭載が義務づけられることになった「役比モニタ」と共通する機能を指示しており、「メーカーやホールによる『不正改造』を容易にチェックすること」が目的となっている。3点目は、全日遊連を中心として各ホールに配置する準備が全国規模ですすめられていた「安心パチンコ・パチスロアドバイザー」を意味する。4点目は「管理遊技機」の名称で計画が進められているものであり、以前には「封入式」パチンコ、「ECO遊技機」などと呼ばれていたことがあった。玉が遊技機の盤面内を循環する仕組みとなっている。遊技機の出玉性能について、「現行の3分の2の出玉量」ということになってはいたが、パチンコとパチスロではゲーム性が異なっており、詳細に見ればパチンコよりもパチスロの方が旧規則の値と比べて規制される幅が大きくなると評価した業界関係者が多かった。

 

 規則改正(案)には経過措置として3年が設けられており、すでに検定あるいは認定を受けている遊技機については3年以内の継続使用が認められた。そのため、検定あるいは認定が切れている状態のみなし機については、特に救済措置が実施されない限り、新規則に移行する2018年2月1日より設置することができなくなった。現行機および再認定機については、新規則施行後でも検定/認定の期間が切れるまで継続して設置することができた。そのため、すべての遊技機が新規則のものに入れ替わる時期としては2021年2月頃が予定されていた。

 パチスロが4号機から5号機に切り替わることになった2004年7月の規則改正から13年ぶりとなったこの規則改正の特徴としてまず言えることは、改正の目的として「ギャンブル等依存症」対策が前面に押し立てられた、ということである。これまでの改正では、その目的として「射幸性の抑制」と「不正改造の根絶」がいつも前景にあった。だがこの改正でそれらは後景へと退き、ほぼすべての改正内容が「ギャンブル等依存症」対策に紐づけられていた。

 この規則改正は、カジノ・IR導入の準備段階で実施されたものである。このタイミングを勘案すれば、為政者たちは、パチンコ・パチスロという遊技のいわゆる「射幸性」を、過去には確かにその性格として持っていた「娯楽」の範囲にまで下げて、「射幸性」が青天井に高いカジノを迎える土壌を日本に整えることを主目的としていた、と推測することもできるだろう。

 パチンコの「依存」問題対策は、「射幸性」を3分の2に落とすという風営法の施行規則改正によって、ひとまずの決着を見た。ただ、なぜ3分の2なのか、その根拠は明確に示されないままであり、このことは後々まで批判され続けることになる。警察庁としては日本版カジノ・IRを実現させるための「環境整備」を迫られた当初には、例えば業界団体が日本社会を納得させるほどの自主規制を次々に打ち出す、という別のシナリオ、あるいは「落としどころ」を探っていた可能性は確かにあった。だが、結局は伝家の宝刀である規則改正を選び、初当たりの確率や出玉量によって数値化される「射幸性」を3分の2に落とした。その際の“根拠”、あるいは“理由”として選ばれたのが、「ギャンブル等依存症対策の強化」であった。「射幸性」の高い遊技機は、「依存症」患者を生む、というロジックである。では、「ギャンブル等」への「依存」とは何なのか。どこまでが明らかになり、どのように説明されているのか。また、どのような対策が採られてきたのだろうか。別稿で論じていきたい。

 本稿では6回にわたって、2016年12月から2017年6月の約半年間に起こった出来事を整理した。この半年は、日本版カジノ・IRを制度化して実現させるために、パチンコの所管行政をどのように修正・再構築するのかが試行され、現実化していった時期であった。この期間中の再構築の工程を経て、パチンコ/ぱちんこは、以前の「のめり込むこともあるかもしれない大衆娯楽」から、「依存症」を惹起する「ギャンブル等」へと、政治的に明文化されて再定義されたのである。

【初出】オンラインサロン「パチ盛り」 ※内容の一部を差し替えてあります

寄稿者紹介

ひら・たいら氏

<プロフィール>

元ビジョンサーチ社『日刊遊技情報』の編集長(2006~2016年)という経歴を持ち全国のホール事情を長年にわたり俯瞰する一方で、ぱちんこ業界における依存問題および対策(レスポンシブル・ゲーミング)、ギャンブリング障害、IR動向等においては専門的な知識を有している、楽太郎の発信活動にとってのアドバイザーの一人。

オンラインサロン『パチンコを盛り上げるサロン』にスペシャリストとして参画している。