ぱちんこが「ギャンブル等」へと変質した過程の記録vol.5

表題の通り、政治・立法の場においてぱちんこが「ギャンブル等」へと変質した過程を全6回に分けて綴ったものを寄稿していただいており、今回は第5回です。

vol.4『「論点整理」が出された政治環境』をまだご覧になっていない方は、こちらからどうぞ。

寄稿文

vol.5「ギャンブル等依存症対策基本法案」の成立

 2016年の年末に国会で「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(通称「IR推進法」)が成立し、その審議の過程で「ギャンブル等依存症患者への対策を抜本的に強化すること」を定めた附帯決議が付けられた。IR推進法は、いわゆる「プログラム法」として上程された。そのため後の2018年7月に、「特定複合観光施設区域整備法」(通称「IR実施法」)が公布されることになる。

 IR推進法は、IRに関して最初につくられた国の法律である。多数派の日本国民にとってカジノは未知の存在である。IR推進法の附帯決議は、カジノへの不安、そして「社会悪」としてバッシングの対象となってきたパチンコ・パチスロに対する日本社会の不満が結実したものと言えるだろう。

 IR推進法の附帯決議には「ギャンブル等依存症患者への対策」を実施することが定められている。政府は、IR実施法案に関する議論を始める前に、附帯決議で定めた「ギャンブル等依存症患者への対策」の領域で何らかの実際的な成果を挙げておく必要があったのである。そのために必要とされた法律が「ギャンブル等依存症対策基本法」であった。

 政府はIR推進法のなかで規定した2017年内のIR実施法成立というスケジュールに間に合わせるため、同年の6月に閉会する通常国会の会期中での「ギャンブル等依存症対策基本法」の成立を目指していた。同法案に関する審議を乗り切るためには、日本の既存の「ギャンブル等」である「ぱちんこ」(パチンコ・パチスロ)と公営競技(中央競馬、地方競馬、モーターボート、競輪、オートレース)で「ギャンブル等依存症」対策を構築する必要があった。特に「ぱちんこ」については当時、「日本の『ギャンブル等依存症』の8割あるいは9割の原因となっている」という指摘がマスコミによって盛んに吹聴されていた。「ぱちんこ」を所管する警察庁は2017年に入ってからあらためて、業界内に依存問題対策を構築する施策についての行政指導に本腰を入れることが社会的に要請されていた。

 政府による「ギャンブル等依存症」対策としてまず出されたのは、3月31日に関係閣僚会議において決定された「ギャンブル等依存症対策の強化に関する論点整理」である。政府が新たな政策を始めようとする際にまず「論点整理」を出すということは、よくあることである。この文書の内容と、出された際の政治的な状況については前稿で詳述した。

 ぱちんこ業界は「ギャンブル等依存症」対策として、業界団体が資金を出して、ぱちんこへの依存問題に関する相談機関であるリカバリーサポート・ネットワークへホール企業から社員を出向させ、また各ホールに依存問題の担当者「安心パチンコ・パチスロアドバイザー」を設置するため研修を全国規模で実施した。動きの遅かった公営競技の各業界と比べて、先進的な取り組みを、スピード感を持って実施したと言えるだろう。ただし、これまでにも繰り返し指摘されてきた「遊技機の『射幸性』を抑制する」という取り組みに対しては、業界団体はこれまでと同様に及び腰であった。

 

 依存問題対策を政治的にも本格的に迫られ、「依存対策元年」となった2017年の上半期(1月から6月まで)においてぱちんこ業界に起こった大きな出来事としてまず、前述の政府による「論点整理」の発出がある。次の特筆すべき出来事は5月9日に起こっている。ぱちんこ業界の主要6団体(全日遊連、日遊協、日工組、日電協、全商協、回胴遊商)の代表者が、警察庁のパチンコ産業担当官から招集を受け、「新基準に該当しない可能性のある遊技機」および「高射幸性遊技機」の撤去スケジュールを見直すよう指導を受けたのである。

 パチンコについては、その前年の2016年の年末までに、いわゆる「マックス(MAX)タイプ」と呼ばれる「射幸性」が高いとされるタイプについての撤去をほぼ終えていたため、この指導はパチスロについてのものであると業界側には了解されていた。パチスロの「新基準に該当しない可能性のある遊技機」については、2017年の年末までに取り決めを定めた時点の30%にまでホールの設置台数を減らすことを業界団体はすでに合意していたのであった。また「高射幸性遊技機」については、具体的な数値目標をともなった取り決めではないものの、業界を挙げてできる限り早く撤去することで合意がなされていた。

 だが5月9日の指導では、「新基準に該当しない可能性のある遊技機」については業界側の目標値が2015年9月の約2年前に取り決められたものであることから前倒しの方向で見直すことを、また「高射幸性遊技機」についてはこれまで定められていなかった目標値を設定することを、担当官より業界は示唆された。ただこの時の指導では、指導に強制力を持たせるような罰則規定や法的根拠が示されておらず、また具体的な時期や目標値が示されなかったこともあり、業界側からはっきりと、指導を首肯し推進していく旨の回答を対外的に宣言することをしなかった。

 「新基準に該当しない可能性のある遊技機」と「高射幸性遊技機」の早期撤去の時期や数値目標について、ホール団体である全日遊連とパチスロメーカー団体である日電協が当事者として折衝を行ったが、入替にあたって何らかの補償を求める全日遊連と、補償の必要性を感じていない日電協で折り合いがつくはずもなく、無為に時間が過ぎていった。

【初出】オンラインサロン「パチ盛り」 

寄稿者紹介

ひら・たいら氏

<プロフィール>

元ビジョンサーチ社『日刊遊技情報』の編集長(2006~2016年)という経歴を持ち全国のホール事情を長年にわたり俯瞰する一方で、ぱちんこ業界における依存問題および対策(レスポンシブル・ゲーミング)、ギャンブリング障害、IR動向等においては専門的な知識を有している、楽太郎の発信活動にとってのアドバイザーの一人。

オンラインサロン『パチンコを盛り上げるサロン』にスペシャリストとして参画している。