ぱちんこが「ギャンブル等」へと変質した過程の記録vol.4

表題の通り、政治・立法の場においてぱちんこが「ギャンブル等」へと変質した過程を全6回に分けて綴ったものを寄稿していただいており、今回は第4回です。

vol.3『「ギャンブル」としての振る舞いを迫られるパチンコ・パチスロ』をまだご覧になっていない方は、こちらからどうぞ。

寄稿文

vol.4『「論点整理」が出された政治環境』

 「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下「IR推進法」)が公布されたのと同じ2016年12月26日、政府は菅義偉内閣官房長官を議長とし関係閣僚によって構成される「ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議」の初会合を開催している。内閣委員会における「IR推進法」に関する審議の過程で付与された「附帯決議」のなかで強調されていた「ギャンブル等依存症対策」に、政府が動き出す姿勢が明確に示されたのである。2017年3月31日に開催した関係閣僚会議の2回目会合では、「これまでの検討整理を整理し、ギャンブル等依存症対策の現状と課題を明らかにするものであり、今後、各課題の検討を進めて具体的対策を立案していくための『第一段階の取りまとめ』」として、「ギャンブル等依存症対策の強化に関する論点整理」(以下「論点整理」)が公表された。ここには、①2016年度から2017年度の2年間をかけて実施されている「ギャンブル等依存症」に関する実態調査において2016年度中に得られた予備調査についての報告、②公営競技とぱちんこのそれぞれの業界において実施されている「依存症」対策についての取組の現状と今後の課題、③医療による治療体制と、精神保健福祉センターや自助グループなど民間団体による回復支援施設についての現状と課題の整理、④学校教育と消費者行政、金融機関による取組の検討、の以上4点が記載された。

 このなかでのパチンコ産業における「依存」問題についての記述では、「現状」と「課題」として、8項目が挙げられていた。政治的に「依存症」とされた問題群に対する精神医療の見解、相互支援(自助)グループなど民間団体による「依存症」の回復支援、これら問題群に対するパチンコ産業による対応については稿を改めて論じていきたい。本稿においては、この「論点整理」が政府より出されることになった当時の政治環境について、まとめておくこととする。そのために、第一に「論点整理」が出された「順序」、第二に「スピード」、そして最後に「提出者」という3つのテーマを立てておく。

 まず「順序」について。2016年12月に「IR推進法」が公布され、同時に「ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議」の初会合が開催されていたことからも、関連産業の関係者のなかにも、「政府は『IR推進法』成立から間髪を入れずに『ギャンブル等依存症対策基本法案』を提出するだろう」と予想していた人が少なくなかったようだ。実際、日本維新の会は「IR推進法」成立から2カ月もたたない2月の時点で早くも、「ギャンブル等依存症対策基本法案」の「維新案」を参議院に提出した。だが、政府与党の自民党と公明党は、より慎重、あるいは周到であった。「IR推進法」の成立直後から関係省庁や有識者へのヒアリングを重ね、それをもとに「ギャンブル等依存症」というトピックスをまとめて今後の政策の方向性を示した「論点整理」を用意し公表したのである。ただ、「論点整理」を先に出しておいて、それをもとに政策化を行うのは、日本の政治においてはどの分野であっても行われてきた、いわば常套手段となっている。そして「論点整理」の内容の現実化を法制化の前に事前に試みて、「地ならし」を行うのである。すでにある公営競技とパチンコ産業において関係省庁と運営者やその業界団体が「『依存』対策にすでに着手した」という既成事実を用意しておいて、次に出す「ギャンブル等依存症対策基本法(案)」ではそれを追認するかたちで円滑に手際よく成立させるという筋道が立てられていたのである。同法案の自民党案が提出されたのは、「論点整理」の決定から2カ月半が経過し、第193回通常国会の閉会直前になる2017年6月13日のことであった。

 「論点整理」では、複数の省庁が、それぞれが所管する「ギャンブル等」の「依存」問題対策について、「現状」と「課題」に言及していた。そこではまず、競馬の農林水産省、競輪・オートレースの経済産業省、モーターボート(競艇)の国土交通省、そしてぱちんこ(パチンコ・パチスロ)の警察庁という、公営競技とパチンコ産業の各「ギャンブル等」の監督官庁が施行者・事業者の取り組みをまとめた。次に、「ギャンブル等依存症」の治療と相談体制を整備する役割を担うことになる厚生労働省、「ギャンブル等依存症」についての教育や啓発を学校教育などで実施することを課題とされた文部科学省、消費者行政を所管する消費者庁、金融機関を所管する金融庁も、「ギャンブル等依存症」対策に加わっていた。今後これらの関係省庁が、「論点整理」に書かれた「課題」解決のために新たな政策を省庁を横断して構築することが目指されることになる。また、「論点整理」の発表後には、「ギャンブル等依存症対策基本法案」と「IR実施法案」についての国会での審議が予定されており、政府はそれを乗り切る必要があった。そのための「論点整理」という側面も持っていた。それはつまり、国会審議の過程でIRに対する攻撃材料(論難)となり得る「依存(症)」の問題に対し、政府として積極的に、かつ多角的に取り組んでいる姿勢をアピールするという狙いが、この「論点整理」からは透かし見ることができたのである。

 次に「スピード」について。「論点整理」の公表は、前年末に「IR推進法」が可決施行されてから3カ月しか経過していない時期に行われていた。その3カ月の間に政府与党は、自民党の政務調査会が6回、公明党の依存症等対策検討PT(プロジェクトチーム)が8回、関係省庁と有識者に対してヒアリングを行った。菅内閣官房長官は、「論点整理」を公表した3月31日の記者会見で次のように話した。

 「今後これ(「論点整理」)を踏まえ、具体的な対策やその実施方法についてさらに検討の上、本年夏を目途に取りまとめをする予定であります。具体的には、特に公営競技やぱちんこにおいて、本人・家族申告によるアクセス制限、簡単にお金を賭けられるインターネット投票での対応、遊技機の射幸性抑制、こういったことについて早急に具体化し、実現していかなければならない旨、指示したところであります。」

 菅内閣官房長官は、夏までという、残り3カ月ないしは4カ月しかない限られた期間のうちに「論点整理」で示された施策を「具体化し、実現して」いくことを「指示した」と語っているのである。パチンコ業界は、「検定機と性能が異なる可能性のある遊技機」の問題(「遊技くぎ」問題)に、2015年の年初から2016年の年末までの丸2年間を費やしていた。だが政府は、この「ギャンブル等依存症」の問題で、これまでとはまさに「次元」の異なるスピード感で、警察庁とパチンコ業界に対して対策を構築していくことを求めていたと言える。

 最後に「提出者」について。「論点整理」は、内閣官房長官を議長とし関係閣僚によって構成される「ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議」によって提出されている。つまり、日本政府の“最高政策決定機関”から出されたと言えるのである。現場への直接指導は、これまでのぱちんこ行政と同じく警察庁生活安全局保安課という担当部局を通して行われるのであるが、その背後には日本政府の意思と、日本政府が企図する政治スケジュールがあった。これまでの警察庁の「行政講話」による通達とは、行政指導の「重み」が一段階も二段階も違っていたのである。この「論点整理」は、政府が成立を目指す「ギャンブル等依存症対策基本法」と、IR・カジノ実現のために必要となる次の「IR実施法」を成立させるための布石である。「IR推進法」は政府に、IR・カジノを推進していくうえで「必要となる法制上の措置については、この法律の施行後一年以内を目途として講じなければならない」という責務を定めていた(第五条(国の責務))。「必要となる法制上の措置」を盛り込んだ法律が、「IR実施法」と呼ばれたものだ。「IR推進法」の施行から1年後となる2017年の年末の「IR実施法」制定に向けて、政府と関係省庁が乗り越えるべき最初の課題が「ギャンブル等」への「依存症」問題に対する対策の構築であり、「IR実施法」の成立期限が1年後に決まっていたことから、遅滞は許されない状況となっていたのである。

 「論点整理」は、以上のような政治環境のなかから政策的な必要性があって発出された文書であったと言える。ぱちんこ業界にとって重要な点は、パチンコ産業を含む「ギャンブル等」への依存問題対策が、所管官庁である警察庁だけでなく、「関係行政機関が緊密に連携し、政府一体となって包括的に対策を推進する」という日本政府の最上位の階層から方針が示されたということである。ぱちんこ業界は、これまで隠語で「神」とも呼ばれることのあった警察庁だけでなく、さらにその上位に位置づけられる政府与党や内閣、国会、そして他の省庁の動向にも注意を払っていく必要が生まれた瞬間であった。それは、「依存症」対策からつくられた道筋であった。

 警察庁とぱちんこ業界の関係は長い。所管省庁と所管される業界が協働した業界運営と所管行政は、いわば“阿吽の呼吸”ですすめられてきたと評価することもできるだろう。だが、IR・カジノ、そして「ギャンブル等依存症」対策に関する政策化が現実のものとなり、ぱちんこ業界は初めて、内閣府および他の省庁と本格的に関係を持つことになったのである。

【初出】オンラインサロン「パチ盛り」 ※内容の一部を差し替えてあります。

寄稿者紹介

ひら・たいら氏

<プロフィール>

元ビジョンサーチ社『日刊遊技情報』の編集長(2006~2016年)という経歴を持ち全国のホール事情を長年にわたり俯瞰する一方で、ぱちんこ業界における依存問題および対策(レスポンシブル・ゲーミング)、ギャンブリング障害、IR動向等においては専門的な知識を有している、楽太郎の発信活動にとってのアドバイザーの一人。

オンラインサロン『パチンコを盛り上げるサロン』にスペシャリストとして参画している。