ぱちんこが「ギャンブル等」へと変質した過程の記録vol.3

表題の通り、政治・立法の場においてぱちんこが「ギャンブル等」へと変質した過程を全6回に分けて綴ったものを寄稿していただいており、今回は第3回です。

vol.2『カジノへの最大の不安、「依存症」問題をまだご覧になっていない方は、こちらからどうぞ。

寄稿文

vol.3『「ギャンブル」としての振る舞いを迫られるパチンコ・パチスロ』

 現行の法制下においてパチンコ・パチスロは、刑法で禁じる「賭博」の対象とはされていない。「遊び」や「ゲーム」を意味する「遊戯」と同じ読みをする「遊技」であると、パチンコ営業を所管する「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(略称「風営法」)において法的に定義されているためである。パチンコ・パチスロの法的な定義については別稿において、より詳細に検討する予定である。

 2016年12月、IR推進法に関する審議が国会で行われていた際には、パチンコ・パチスロに関わるさまざまな問題を「ギャンブリングへの『依存』である」と見なして、「日本にこれ以上ギャンブル施設を増やす必要はない」と主張する言説が、マスメディアやインターネット、SNSには溢れていた。例えば東京新聞は、IR推進法が衆議院内閣委員会で可決した翌日の同月3日付朝刊の社会面で次のような記事を掲載した。

 「ギャンブルの怖さ 世間は知らなすぎる」

 「世間はギャンブルの怖さを知らなすぎる。人が狂うんです。」午後2時すぎ、職場のテレビで流れたカジノ解禁法案の衆院委可決のニュースを、横浜市神奈川区の男性会社員(46)は冷ややかに見ていた。

 男性は20年近く、ギャンブル依存症で苦しんできた。大学生のことからパチンコにのめりこみ、借金は一時300万円に。勝ち続けてもおもしろくない。負けているときに「明日どうしよう」と思いながら、打つドキドキ感がたまらない。(以下略)

 2000年代中頃から10年以上にわたって、IR法案の提出と審議が現実味を帯びるたびに、大手マスコミ各社は「ギャンブル依存症」についてのネガティブな報道を執拗に繰り返し、反カジノ、そして反パチンコ・パチスロのキャンペーンを行ってきた。これら報道は元ネタとなって、インターネットとSNSで反復されていく。マスコミの記事には“定型”がある。記事はまず、「ギャンブル依存症」について、読者を含む「世間」あるいは日本社会は無知である、という前提から始める。そしてギャンブリング、特にパチンコ・パチスロをやめることができないのは、やめることのできない人の意思が弱いからではなく「依存症」という「病気」に、すでに「罹患」しているからだと説明する。このときしばしば厚生労働省の調査結果として日本の「ギャンブル依存症の患者数536万人」という数字が持ち出される。精神科医の診断基準や臨床データが持ち出されることは稀で、「ギャンブル依存症」についての医学的な詳しい説明がなされることも少ない。記事の後半ではたいてい、個別事例の描写に移る。この事例では、借金、失業、家庭崩壊、最悪の場合には自殺と、「依存症患者」の悲惨な状況が描写される。借金など悲惨な状況の原因は一元的にパチンコ・パチスロに代表されるギャンブリングであると特定される。記事後半のひとつの事例が、「ギャンブル依存症患者」の悲惨さを代表し、536万人に敷衍される。

 2000年前後、欧米および日本の各国で抗うつ薬を販売したい製薬会社が軽度の鬱を「心の風邪」というキャッチコピーでマーケティングを行い、これは「病気喧伝」あるいは「疾患喧伝」であるとして批判された。具体的な臨床データではなく、抽象的で曖昧なイメージ風のメッセージによって不安を煽る手法であると指摘されたためである。客観的な情報についてはほとんど伝えられていないために、専門的な知識を持たない人に誤った認識を植え付けることによる「過剰な啓発」であるとして倫理性を問われた。「ギャンブル依存症」についてのマスコミによるキャンペーンは、カジノやパチンコ・パチスロといったギャンブリングを“社会悪”と見なす価値観に基づいており、多くのパチンコ・パチスロのユーザーが自らを「依存症患者」ではないかと疑い、不安にさせられた。

 ところで、パチンコ・パチスロが原因で「ギャンブル依存症」に罹患するという図式は、少なくともこれらの報道が出始めた頃には、パチンコ業界関係者に違和感を与えたようである。パチンコホールは、遊技を提供する営業所であり、風営法によって所管される許認可産業である。営業を始め継続するためには、所管行政から営業許可を受けて風営法に違反していないと認められつづける必要がある。風営法違反として摘発されるようなことがあれば、営業停止などの重い処分が科せられる。そのため、日々の営業において「法令順守」を強く意識し、「遊技産業」であると自己を定義付けて律している。パチンコ業界の内部で働く人たちは、順法精神を強く意識していればいるほど、「パチンコ・パチスロ=ギャンブリング」という等式を前提とするメッセージに対して違和感を覚える傾向があるようだ。そのような認識を代表する言説のひとつとして、パチンコ業界の側から発言する濱口理佳氏による次のネットニュースの記事を挙げることができるだろう。

 「無知が生むパチンコ誤認 正す努力を」

 カジノ一つつくるのに、遊技業界がどうしてここまでやり玉に挙げられ、追い詰められなければならないのか。ギャンブル依存症にせよ、誰かが「カジノができると依存症が問題だ」と言い出すと、「パチンコはどうなのか」と矢が飛んでくる。

 パチンコは風営法で厳しく規制された娯楽であるにもかかわらず、ギャンブルと並列に扱われ、しかも「パチンコは依存に対して何もしてこなかった」などと吹聴する人も出てくる始末。実際、業界は遊技への過度なのめり込み(依存)問題にかねて積極的に取り組んできた。」(SankeiBiz「遊技産業の視点 Weekly View」2017年2月18日付)

 この記事に対し、カジノについて積極的に発言を繰り返すカジノ研究家の木曽崇氏は、翌日にアップしたネットニュースで3点の「問題点」を挙げて反論した(YAHOO!JAPANニュース「カジノのせいでパチンコが「やり玉」に挙げられている」2017年2月19日付)。

 第1の問題点は、「今パチンコが追い詰められているのはカジノのせいなのか?」。パチンコ産業が追い詰められているとするならば、その原因はすべて、パチンコ産業にすでに内在されていたものであり、パチンコ産業に対する社会からの非難とカジノはまったく関係が無いと関連を否定する。

 第2の問題点として挙げるのは、「この局面で「パチンコはギャンブルではなく遊技」は完全に詭弁」という指摘である。政府がすすめる「ギャンブル依存症」への対策に関する議論は、「それら(富くじやパチンコ、金融商品など(引用者注))が日本の法律上ギャンブルと定義されているかどうかに関わらず、そこに一定の射幸性が含まれており、その射幸性に対して依存する人が居る。だとすれば、それに対して社会的に何らかの手当てをしなければならない」と説明したうえで、パチンコに依存問題が存在しているという「謗りをかわそうとする行為にどれ程の意味があるのか。そういうのを世の中では詭弁と呼びます」と切り捨てる。

 第3の問題点として、「ギャンブル等依存の8割はパチンコ依存」と指摘する。その根拠として、週刊誌「週間朝日」に掲載された「ギャンブル依存症の8割が「パチンコ依存」 国内400万人以上に疑いあり」(2014年11月21日号)の記事を挙げる。この根拠となった記事の「400万人」は、2014年8月頃に各全国紙が採りあげた久里浜医療センター研究班による調査結果のなかの「ギャンブル等依存症が疑われる者」を「536万人」とした推計値に8割を乗じて導き出されている。「536万人」という数値はインパクトが強く、一連のIR推進法の審議からパチンコ・パチスロへの依存問題に関する議論に頻繁に援用されて、極めて大きな影響を与えた。この“数字”については後に詳述する。

 濱口氏の記事に対して木曽氏により指摘された第4の問題点は、果たして「パチンコは風営法で厳しく規制された娯楽」なのか、という点である。木曽氏は、2015年と2016年の2年間にわたってパチンコ業界を激しく揺さぶったいわゆる「遊技くぎ」問題(「検定機と性能が異なる可能性のあるぱちんこ遊技機」問題)などを念頭に置いて、「長年に亘って法令を無視しゲームの射幸性を高めることを追求し続けてきた業界が、舌の根も乾かぬうちに「パチンコは風営法で厳しく規制された娯楽」などと主張するのはあまりにもお粗末な話」と一蹴する。

 濱口氏の主張は、当時の状況についてパチンコ業界(遊技業界)の内側にいる関係者の認識を代表して示したものであり、木曽氏の反論は、業界内部の認識を外部の視点から否定あるいは批判したものであると言える。濱口氏の文章が、彼女が主な寄稿先とするパチンコ業界誌(紙)など業界内部の媒体に掲載されたのであれば、SNSで「炎上」することもなかっただろうと思われるが、「SankeiBiz」という一般向けのインターネットニュースサイトで記事として配信されたために、身内とも言えるパチンコ業界の関係者からもツィッターで「不用意だった」などと批判された。ただこの濱口氏と木曽氏のやり取りは、業界内部と外部の認識のズレを如実に浮かび上がらせる効果があった。

 斜陽産業となったパチンコ産業は、特に若年層の取り込みに失敗しており、ユーザーが固定化している。そのため参加人口は、高齢化による自然減や経済的な破綻などにより、継続的に漸減しつつある。ユーザー以外の「一般社会」に対するパチンコ産業からの情報発信力は極めて弱くなっており、長く業界に馴染んだ固定ユーザーへの内向きの情報が閉鎖的なコミュニティ内を反復・乱反射しているような状況にある。パチンコ・パチスロに参加しない人たちが外部から眺めれば、パチンコ産業は特殊で閉ざされた閉鎖社会に映る。パチンコ産業はこれまで、新機種の性能や販売時期、警察庁による規制強化など、業界内部でしか流通せず業界の外部ではほとんど価値を持たない情報をやり取りし、外部への情報発信には無頓着であった期間が長くつづいた。20年ほど前までであれば、パチンコ産業の市場規模が巨大であったために、パチンコ産業の内部に引き籠っていることも可能であった。

 だが、カジノ・IR、そして「ギャンブル依存症」についての広範な議論が本格化して以降、パチンコ産業はこれまでの閉ざされていた業界用語が通用する、いわば「静的な世界」から、「ギャンブル(等)」として公営競技やカジノと同列に並べられ、共通言語への“翻訳”を強要される「動的な世界」へと引きずり出されてしまったと言えるだろう。この「ギャンブル」という土俵の上でパチンコ産業がどのように振る舞うのか、日本社会が注目していた。

【初出】オンラインサロン「パチ盛り」 ※内容の一部を差し替えてあります。また、引用箇所は原文の通りです。

寄稿者紹介

ひら・たいら氏

<プロフィール>

元ビジョンサーチ社『日刊遊技情報』の編集長(2006~2016年)という経歴を持ち全国のホール事情を長年にわたり俯瞰する一方で、ぱちんこ業界における依存問題および対策(レスポンシブル・ゲーミング)、ギャンブリング障害、IR動向等においては専門的な知識を有している、楽太郎の発信活動にとってのアドバイザーの一人。

オンラインサロン『パチンコを盛り上げるサロン』にスペシャリストとして参画している。