ぱちんこが「ギャンブル等」へと変質した過程の記録vol.2

表題の通り、政治・立法の場においてぱちんこが「ギャンブル等」へと変質した過程を全6回に分けて綴ったものを寄稿していただいており、今回は第2回です。

vol.1『突然だったIR推進法の成立』をまだご覧になっていない方は、こちらからどうぞ。

寄稿文

vol.2『カジノへの最大の不安、「依存症」問題』

 自民党と公明党の連立政権の議員数は、今の長期政権において、国会内で安定多数を保持している。IR・カジノの推進については、大阪への誘致を目指す日本維新の会の賛同も期待することができ、さらにIR・カジノの実現を目指して活動を行ってきた国際観光産業振興議員連盟(通称「IR議連」)には一部の民進党議員も名前を連ねていた。それでもIR推進法が2016年の年末まで成立しなかった最大の要因は、「ギャンブル依存症」への懸念などを理由に、連立与党の公明党が反対の立場を採ってきたためである。2015年6月26日付の共同通信配信の記事は次のように報じている。

 「公明幹事長、カジノ法案反対を重ねて表明」

公明党の井上義久幹事長は26日の記者会見で、カジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)整備推進法案について、ギャンブル依存症対策が不十分だとして反対する意向を重ねて表明した。「依存症は病気だ。『対策は大丈夫だ』と国民に示すのが法案提出者の責任だが、具体的に示されていない」と述べた。法案をまとめた超党派の議員連盟が、収益を依存症対策に充てる方針を示していることには「金の問題ではない。多くの検討を政府に委ねているが、政府がきちんと対応できるか担保がない」と批判した。

 公明党は、IR・カジノを重点政策のひとつに挙げる自民党と違い、年次の「政策ビジョン」や「マニフェスト」にIR・カジノを含めてこなかった。前掲の井上幹事長の発言が典型的に示すように、「ギャンブル依存症」への対策が十分ではないとして、後ろ向きの発言を繰り返してきた。そのため自民党をはじめ、カジノの推進派勢力は、IR推進法を通せずにいた。

 公明党は、これまでの自公連立政権で繰り返されてきたとおり、「IR推進法」でも最後には折れた。当時、日本維新の会が自民党に国会運営で協力する度合いを強めつつあり、公明党は連立与党としての存在感が薄まることを警戒していた。公明党は2016年12月2日に、「IR推進法」の採決では党議拘束を外して自主投票とすることを決定した。この背景には、自民党は公明党を抜きにIR・カジノを大阪に誘致したい日本維新の会と組んで法案を成立させてしまうのではないかという警戒感が公明党にはあったとするテレビコメンテーターの解説も聞かれた。ただし採決では、山口那津男代表をはじめとして、衆議院と参議院で公明党議員のおよそ3割が反対票を投じた。

 法案審議の過程では、運用に際して留意すべき15点を列挙した全16項目からなる「附帯決議」が、参議院内閣委員会において12月13日付で決定されたことは重要である。公明党への配慮があったものと想像できる。附帯決議の10点目が「ギャンブル等依存症患者への対策」についてとなっており、政府に対して次のように求める。

ギャンブル等依存症患者への対策を抜本的に強化すること。我が国におけるギャンブル等依存症の実態把握のための体制を整備し、その原因を把握・分析するとともに、ギャンブル等依存症患者の相談体制や臨床医療体制を強化すること。加えて、ギャンブル等依存症に関する教育上の取組を整備すること。また、カジノにとどまらず、他のギャンブル・遊技等に起因する依存症を含め、ギャンブル等依存症対策に関する国の取組を抜本的に強化するため、ギャンブル等依存症に総合的に対処するための仕組・体制を設けるとともに、関係省庁が十分に連携して包括的な取組を構築し、強化すること。また、このために十分な予算を確保すること。

 また附帯決議の4点目では「国際的競争力の観点及びギャンブル等依存症予防等の観点から、厳格に少数に限ることとし、区域認定数の上限を法定すること」、さらに8点目では「依存症予防等の観点から、カジノには厳格な入場規制を導入すること。その際、自己排除、家族排除プログラムの導入、入場料の徴収等、諸外国におけるカジノ入場規制の在り方やその実効性等を十分考慮し、我が国にふさわしい、清廉なカジノ運営に資する法制上の措置を講ずること」など、附帯決議においては「ギャンブル依存症」対策について繰り返し言及されており、推進法の段階としてはかなり厳格な縛りが付けられたと評価することができるだろう。

 カジノはこれまで日本に存在しなかったものである。一定数の人たちが“未知な事物・現象”、あるいは“情報が極端に不足する事物・現象”に対して警戒心を抱くのも無理はない。カジノの導入の結果として懸念される事項としては、「ギャンブル依存症」の増加だけでなく、青少年への悪影響、暴力団や海外マフィアなど反社会的勢力の伸長、地域環境への悪影響などがある。それらネガティブな諸要素のなかでも「ギャンブル依存症」について特に強く懸念する雰囲気が日本社会には出来あがっていた。それは、カジノの導入以前に日本にはすでにパチンコ・パチスロへの「依存症」の問題があり、多くの「依存症患者」が発生しているということが、特にIR推進法の議論が始まることから頻繁に、さまざまなマスメディアにおいてキャンペーン報道されていたためである。最近のパチンコ・パチスロに対する特にノンユーザー(非‐遊技客)からのイメージは、稿を改めて詳述する予定であるが、「依存」の問題だけでなくいくつもの要因が重なって、どれほど贔屓目に見てもネガティブなものとなっている。パチンコ・パチスロと結び付いて連想されるということは、そのことだけでもカジノが批判・攻撃されてしまう理由となる可能性があったのである。

 日本へのカジノの導入にあたって、この「依存症」の問題が最大の障害になることは、前年までの法案審議の過程からすでに明らかとなっていた。そのため「IR推進法」を成立させた政府は、「依存症」問題への対策を最重要課題と位置づけ、取り組む姿勢を極めて早い段階で矢継ぎ早に打ち出した。IR推進法の交付日となった2016年12月26日、最初の「ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議」を首相官邸の大会議室で開催した。ここには、会議を管掌した内閣官房のほか、警察庁(パチンコ・パチスロ、麻雀、ゲームセンター(風営法により所管される遊技産業))、金融庁(FXなどの金融証券)、消費者庁(スマートフォンなどのソーシャルゲーム、インターネットカジノなど)、総務省(宝くじ(富くじ))、文部科学省(toto(スポーツ振興くじ))、厚生労働省(精神保健福祉行政)、農林水産省(競馬)、経済産業省(競輪、オートレース)、国土交通省(競艇(ボートレース))と、日本にある広義の各「ギャンブル」を所管し「依存」問題に関係する省庁から関係閣僚が出席した。

 新聞などの報道によれば、この会議ではまずIR推進法の可決成立が報告された。そして厚生労働省が、「ギャンブル等依存症が疑われる者」として「536万人」という推計値を出し大きく報道された国立病院機構久里浜医療センター・樋口進院長による2013年度の調査研究と、同センターに委託して実施中の2016年度の調査研究を、「ギャンブル等依存症に関する実態把握」として説明が行われた。また同省が構想する「ギャンブル等依存症」についての対策案について説明した。この案は、全国拠点機関として久里浜医療センターを指定し、47都道府県・20指定都市に「依存症」の専門医療機関を“治療拠点”として指定、精神保健福祉センターを“相談拠点”として整備拡充するというものであった。この対策の予算も示されており、2017年度に地域生活支援促進事業34億円から、久里浜医療センターに6024万3000円、医療機関と精神保健福祉センターに4億4864万3000円、民間団体による「依存症」に関する普及啓発事業に1560万円、合計約5億3000万円が拠出されることを示した。さらに地域生活支援促進事業の34億円よりある程度の金額が回復施設などの民間団体にまわされると説明された。全国47都道府県・20指定都市のそれぞれに医療機関1カ所、精神保健福祉センター1カ所の計134カ所の支援対象施設を指定すると、4億4864万3000円の予算は1カ所あたり334万8000円となる。また各「ギャンブル等」を所管する省庁からは、警察庁が「ぱちんこ(パチンコ・パチスロ)」の、農林水産省が競馬の、経済産業省が競輪とオートレースの、国土交通省が競艇(モータボート)の、それぞれの「依存症」対策について説明した。パチンコ・パチスロによる「依存(のめり込み)」問題への対策についても、稿を改めて詳述する予定である

 ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議のあった日の翌日となる27日にはたたみかけるように、厚生労働省が「依存症対策推進本部」の初会合を開催した。ここでは「ギャンブル依存」だけでなくアルコール依存と薬物依存についても、省内にそれぞれのチームをつくり具体的な対策を協議する方針を決めている。この3つの領域の依存問題は後に、連携して対策が立てられるよう、厚生労働省によって方針が固められることになる。

 IR推進法の成立・公布を受け、政府だけでなく、自民党をはじめ「依存」問題に強い懸念を示しつづけてきた公明党、さらには野党第一党として対案を立案する民進党でも、「依存症」問題対策についての政策の立案を開始した。公明党と民進党はIR推進法成立後、交付日の26日以前の段階ですでにプロジェクト・チーム(PT)や部門会議での議論を開始している。

 十分な「依存症」問題対策を求める与野党と世論の要望に応える形で政府は、IR実施法案の前に「依存」問題への対策法案を提出することを、12月15日の時点で決めている。毎日新聞の16日付朝刊はこの経緯を次のように報じている。

「依存症対策法案検討 カジノ実施法案の前に 来年通常国会」

政府・与党は15日、「統合型リゾート(IR)整備推進法」(カジノ法)の成立を受けて、ギャンブルなどの依存症対策を強化する法案を早ければ来年(2017年、引用者注)の通常国会で提出する検討に入った。国会審議で対策不足を懸念する声が相次いだため、カジノの具体的な制度設計を盛り込む「実施法案」の前に提出し、カジノ解禁への理解を促す狙いがある。

カジノ法は実施法案を1年以内に策定するよう政府に求めており、来年秋の臨時国会での提出を想定している。そのため、その前の通常国会で対策法案の提出を目指す。

ギャンブル依存症は、カジノ法の国会審議で焦点となり、与野党から懸念が相次いだ。自民党は参院での審議過程で、当初法案に記載がなかった「ギャンブル依存症等の防止」との文言を明示する修正をした。

加えて、衆参両院で相談・医療体制の充実など依存対策を強化するよう政府に求める付帯決議をした。特に参院の決議では「国の取り組みを抜本的に強化」「予算を確保」と明記。このため、実施法案に対策を盛り込むだけでなく、依存症対策のための法案を別に提出する検討を始めた。

「ギャンブル依存症等」への対策が政策課題となっている。だが、具体的な検討が始まったのは、すでに日本にある最大規模のギャンブリング、すなわちパチンコ・パチスロの「依存症」への対策についてであった。

【初出】オンラインサロン「パチ盛り」 ※内容の一部を差し替えてあります

寄稿者紹介

ひら・たいら氏

<プロフィール>

元ビジョンサーチ社『日刊遊技情報』の編集長(2006~2016年)という経歴を持ち全国のホール事情を長年にわたり俯瞰する一方で、ぱちんこ業界における依存問題および対策(レスポンシブル・ゲーミング)、ギャンブリング障害、IR動向等においては専門的な知識を有している、楽太郎の発信活動にとってのアドバイザーの一人。

オンラインサロン『パチンコを盛り上げるサロン』にスペシャリストとして参画している。