ぱちんこが「ギャンブル等」へと変質した過程の記録vol.1

2020年8月19日

表題の通り、政治・立法の場においてぱちんこが「ギャンブル等」へと変質した過程を全6回に分けて綴ったものを寄稿していただきました。

まずは初回です。それではご覧下さい。

寄稿文

vol.1『突然だったIR推進法の成立』

 通称「IR推進法」の正式名称は、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」である。2016年12月15日(14日深夜)に成立し、同月26日に公布・施行された。「複合観光施設」は、法律の審議段階で「統合型リゾート施設(Integrated Resort facilities)」と呼ばれていたために「IR」と略される。IRは、カジノだけでなく、会議場、レクリエーション施設、展示場、宿泊施設などによって構成される複合施設である。とはいえ、IRにおいて、集客の核となり、中心的な施設となるのはカジノである。IRの運営者の選定にあたっても、カジノ運営の実績が最重要視される。またカジノだけが日本の現行法では違法となっており、その「違法性を阻却する」、すなわち合法化するための新法の制定が必要とされている。カジノをIRとセットで捉えるのは、日本政府が、IRの枠組みのなかでカジノが運営されているシンガポール型のIR・カジノの導入を目指しているためである。



 IR推進法は、IRを設置するにあたっての基本的な理念や目的を定め、政府がそれを整備することを、期限を区切って課す、いわゆる「プログラム法」である。同法では、施行日から1年以内に国は「必要となる法制上の措置」を講じると定める。「必要となる法制上の措置」とは、IRの実現に必要となる具体的な諸政策を定めた法律「実施法」を指している。IRの工程表では、IR推進法とIR実施法という、対となる二段階の立法による導入を予定する。日本へのIR導入にあたって、いわゆる「ギャンブル依存症」の問題、カジノの合法化(違法性の阻却)、マネーロンダリング(資金洗浄)への対策、青少年の入場規制と治安維持、設置する地域と事業主の選定過程における公平性の確保、税制の構築・脱税の防止など、クリアすべき政策課題が山積している。その方向性を定める法律が実施法である。「実施法」での各論点の具体的な議論に入る前に、「プログラム法」の推進法を成立させておき、IR導入を国の既定路線として「実施法」の制定時期を固めてしまうという効果がある。



 IR推進法の成立前はもちろん、現時点においても、カジノを日本につくることについて反対する意見も多く、政府与党内にさえ公明党を中心に多数の慎重派が存在した。カジノおよびIRに関する法案を提出しようとするこれまでの動きをまとめておこう。カジノ導入についての政治的な議論は、1999年に当時の石原慎太郎東京都知事が都内でのカジノ開設に意欲を示したことが報道されて以来、10年以上にわたって何度も湧き起ってきた。2000年代に入り、IR・カジノを誘致しようとする地方公共団体が「地方自治体カジノ研究会」を創設し、「日本カジノ創設サミット」および「日本IR創設サミット」を開催してきた。国会議員の有志は「カジノと国際観光産業を考える議員連盟」(後に「国際観光産業としてのカジノを考える議員連盟」に改称)を、さらには「国際観光産業振興議員連盟」を結成。中央と地方の両方で、機運を醸成し議論を重ねてきた。だが、2005年の郵政民営化論議、2007年の参議員での与党過半数割れ、2009年の民主党への政権交代、2011年の東日本大震災などによって、IR・カジノについての政策論議は何度も中断された。2013年には法案が提出され、2014年6月には衆議院内閣委員会での審議入りまで漕ぎ着けているが、同年11月に衆議院が解散したことによりいったん廃案となっている。



 2015年に提出され2016年の国会で継続審議となっていた今回の法律の成立までの過程においても、2016年の11月末になるまで審議入りしなかったために、下半期の第192回臨時国会の会期中に成立することはないだろうという見通しが、関係者の共通認識として共有されつつあった。だが同法は11月30日に衆議院内閣委員会で審議入りし、わずか3日後の12月2日には可決した。同月6日に衆議院本会議で可決、同月15日には参議院本会議でも可決され、法律はとんとん拍子で成立した。安定的な政策運営が許されている「安倍一強」の政治状況にあったとはいえ、審議入りはあまりに突然であり、短期間での審議過程は反対派に声を上げる猶予を与えなかったという印象を与えた。最初の衆議院内閣委員会での実質的な審議時間はわずか5時間33分であった。その限られた時間中でも、質問時間が余って般若心境を唱えた議員もいた。その後の本会議と参議院では、審議らしい審議は行われていない。そのためIR推進法の成立直後には、「審議が尽くされた」とは到底言えないという批判が、反対派からだけではなく、読売を含む全国紙においても見られた。



 やや強引とも言える手続きによって成立したIR推進法であったが、このような手法を採らざるを得なかったのは、カジノの導入にあたってこれまでの国会審議や世論調査で最大の懸念材料となっていた「ギャンブル依存症」の問題が、またしても大きく取り上げられていたためであった。

【初出】オンラインサロン「パチ盛り」

寄稿者紹介

ひら・たいら氏

<プロフィール>

元ビジョンサーチ社『日刊遊技情報』の編集長(2006~2016年)という経歴を持ち全国のホール事情を長年にわたり俯瞰する一方で、ぱちんこ業界における依存問題および対策(レスポンシブル・ゲーミング)、ギャンブリング障害、IR動向等においては専門的な知識を有している、楽太郎の発信活動にとってのアドバイザーの一人。

オンラインサロン『パチンコを盛り上げるサロン』にスペシャリストとして参画している。