①政策は「ウィズ・コロナ」路線へ②各自治体におけるIR動向【IRにまつわる動向:6月版】

寄稿文

「アフター・コロナ」から「ウィズ・コロナ」へ

遅くなりましたが、本稿で2020年6月期においてIR・カジノをめぐる状況はどうだったのかを振り返り整理します。

まず、IR・カジノの領域においてだけでなく、すべての社会経済活動の領域において、コロナ(新型コロナウイルス感染症の流行拡大)の影響にふれずにどのような動きや変化も言及できない状況となっています。「コロナ終息(After COVID-19)までをどう乗り切るか」という設問を立てるのではなく、「コロナの時代(With COVID-19)にどう適応するか」という設問の立て方の方が、より現実的であると感じています。というのも、5月期のレポートでも書きましたが、たとえワクチンが想像以上のスピードで開発されたとしても、それが全地球規模で行き渡るまでには、この二極化された世界では相当の時間がかかると見込まれるからです。7月22日には、コロナの第二波が来ていることが明らかであるにもかかわらず、「GoToトラベル」キャンペーンが始まりました。このことは現政権が、「アフター・コロナ」ではなく「ウィズ・コロナ」の路線で政策を遂行していることの証左であると思われます。

5月下旬から6月前半にかけては、コロナに対する政府の警戒態勢が解除されていった時期であったと整理できます。政府が緊急事態宣言を全国に拡大したのは4月16日でした。この時にはまだ「アフター・コロナ」(コロナの終息)を想定し得る段階であったと言えます。それから約40日後となる5月25日に緊急事態宣言が解除されます。その一方で、東京都は6月2日、「東京アラート」を発します。ですがそれもわずか10日ほど後の同月11日には解除され、以降「東京アラート」が発令されることはありませんでした。東京都の感染者数が飛びぬけて多い状況がつづいています。地方からは「東京悪者論」が噴出しかねない状況にありました。都としては何らかの対抗策を取っていることを、対抗策に印象的なタイトルを付けて全国に示す必要があったと思われます。

どこかで「アフター・コロナ」ではなく「ウィズ・コロナ」の時代を迎えることになる覚悟が言語化されないまでも社会的に醸成されていった6月中、一部のメディアによって振り返りが行われたのが、コロナの第一波拡大期に見られた「パチンコ・バッシング」の正当性でした。ここで新たに、と言いますか、ふたたび、と言うべきなのでしょう、「悪者」として指摘されたのが、ワイドショー番組に象徴される「マスメディア」でした。「マスメディア」にそれほどの影響力はあるのか、「マスメディア」の本質とされている視聴率至上主義が今でも機能しているのか、といったことは検証されないまま、社会の「悪者」がパチンコホールからワイドショーに置き換えられたのです。

アメリカではこのコロナ禍によって人種間の構造的な分断が、5月25日に起こったジョージ・フロイド氏の白人警官による殺人を契機として表面化しました。コロナはさまざまな潮流と地殻変動を表面化させる作用をもたらしています。日本において真っ先に起こったのがパチンコ・バッシング、そして「夜の街」バッシング、そしてワイドショー批判であったことは、日本社会がこれまで不可視化しようとしてきたものの所在を示していると思います。

IR・カジノ、そして日本のパチンコを包含するギャンブリングの領域では、このコロナの時代が長期化するにつれて、「ランドベース」から「オンライン」への移行が進行しているという分析を見かけます。では、本当のところはどうなのでしょうか。どれぐらいの人、時間、金額がランドベースからオンラインに流れたのでしょうか。また、オンライン・ギャンブリングを社会化、制度化していく手段はあるのでしょうか。これからの実証的な分析、主に税制面と国際協調による政策化、そしてオンライン・ギャンブリング事業者が社会的責任を果たすことによる社会化が期待されています。

各自治体におけるIRの動向

日本のIR・カジノ関連の動きでは、政府による基本方針の制定時期に注目が集まっています。すべての政策は工程表に沿って実現されていくのですが、工程表は国の基本方針策定の段階で停止しているのです。IRを誘致する自治体が策定する基本計画は、国の基本方針をもとに策定されることになっています。自治体は自ら策定した基本計画をもとに事業者を選定します。基本計画がなければ、事業者も自治体に応募する事業計画を用意できません。

IR整備法の公布は2018年7月26日でした。そしてIR整備法は基本方針の施行期日を「公布の日から起算して二年を超えない範囲内」としていました。IR誘致を公言する各自治体は、国による施行期日延長の発表が無かったことから、当初の予定通り7月26日に基本方針が試行される前提で自治体ごとの工程表をすすめてきました。「アフター・コロナ」は来ない可能性が高まっていたこの6月は、いよいよ国は基本方針を発表しない可能性が高まってきた時期でした。

大阪府・大阪市のIR推進局は6月23日、IR事業者公募選定(RFP)の書類提出期限を7月頃から延長すると発表しました。RFPの書類提出は、国の基本方針と自治体の基本計画が策定・施行されていることが前提です。大阪は3月27日に、実施方針(案)、RFP募集要項を修正し、RFPの書類提出期限を4月から7月頃に、選定時期を6月から9月に、それぞれ3ヵ月延期しています。つまり時期の延期は二度目となったのです。6月4日の段階で松井一郎・大阪市長は、定例記者会見において、「まだ確定できないが、全体的に1~2年の延期、開業は2027~2028年と思っている」と話しています。IRのフロントランナーであった大阪による「見極め」は、この6月上旬に行われたと判断していいでしょう。

大阪よりも強硬にIRについての施策を進めつつある印象を受ける横浜市では7月3日、林文子・横浜市長が定例記者会見において「国のスケジュールが変わることはいいことではない。国土交通省に変更を要求せず」と発言しています。少なくともこの時点においては、7月から8月中に横浜市会に「実施方針(案)」「募集要項(案)」を説明し、8月中に「横浜IRの方向性」「実施方針」「募集要項」を公表、事業者公募選定(RFP)を開始する予定としています。

和歌山県は3月30日に早くもRFPを開始していました。5月14日の時点で、RFP資格審査書類提出者のクレアベストニームベンチャーズ株式会社(クレアベスト・グループ)とサンシティグループホールディングスジャパン株式会社が審査を通過したと発表しています。少なくとも現時点ではまだ、国の動向に左右されずに、2021年1月頃に優先権者の選定を行う方針としています。

長崎県議会は6月26日、観光振興・交通対策特別委員会(令和2年6月定例会)におけるIRに関する質疑において、「国土交通省との電話におけるやりとりのなかで、長崎県は基本方針案のIR区域整備計画の申請受付期間としては、当初の予定通り2021年1月4日から7月30日で準備が整うと回答しています。本年1月10日を提出期限としていたRFPの前段となるアイデア募集(RFC)では、①Current(ソフィテルマカオ・アットポンテ16&ゲットナイスホールディングス(香港資本。不動産・金融))、②Oshidori International Development(香港資本。投資・金融)、③CASINOS AUSTRIA INTERNATIONAL(CAI、オーストリア)の3事業者より提案を受けており、RFPにおいてもこの3者によるコンペとなると予想されています。

 コロナの影響により日本のIR事業では、大規模な投資と準備が必要となる大阪や横浜、東京といった大都市型の事業よりも、和歌山のマリナーシティや長崎・佐世保のハウステンボスといった比較的小規模な既存の敷地で工期と投資規模を抑えて実施すべきではないかという観測が出てきています。ランドベース・カジノの敷地は小さくとも、オンライン領域におけるカジノ営業は、その規模の影響を受けません。コロナが日本のIR事業を大きく変えてしまったことが明確になったのが、この6月であったと言えそうです。

寄稿者紹介

ひら・たいら氏

<プロフィール>

元ビジョンサーチ社『日刊遊技情報』の編集長(2006~2016年)という経歴を持ち全国のホール事情を長年にわたり俯瞰する一方で、ぱちんこ業界における依存問題および対策(レスポンシブル・ゲーミング)、ギャンブリング障害、IR動向等においては専門的な知識を有している、楽太郎の発信活動にとってのアドバイザーの一人。

オンラインサロン『パチンコを盛り上げるサロン』にスペシャリストとして参画している。