経営者の我慢に対して、何をもって応えるか
先月末の事だが、管理店舗で11時間ほど過ごす必要性が生じた。
私は事務所の椅子に自身を縛り付けるかのようにして資料作成に取り組み、それは果たして数日後に経営者様がある事業計画において役員連中を説得するための材料として大活躍したらしい。
つい先日、全くの別件で社長室に呼ばれ、あーでもない、こーでもない、最後にはどーでも良い事を2時間ほど話し合い、退出する間際に「あ、そうだ、楽ちゃんさ(もちろん実際には本名で呼ぶ)、これあげるよ」「この前の資料の成功報酬だ」という言葉と共に差し出されたのは立派に包装された四角柱の物体であった。
その物体は「ふふふ、この私は、割とイイ感じのお酒であるぞよ」という風なオーラを放っていた。
私は帰りの電車の座席にお利口にオスワリして、生まれたての大事な我が子を胸に抱くかのようにしてそれを運び、約1時間後に自宅にて開封の儀におよび眼前に現れたのは末端価格7千円くらいの「バランタイン21年」であった。
このバランタイン、等級が低いものは悪酔いしか齎さないのを学生の時分に身をもって経験しているので正直言ってそこまで印象は良くない。
しかしその一方で、およそ18年クラスよりも等級が上のウィスキーであれば、好みの如何はあれども等級が高い事自体を愉しんだり価格を香り付けにして飲む、という芸当が可能になるのもまた事実である。
もう20数年も昔だが横浜のアパートの一室で学友と共に安い乾き物をオツマミに女性ボーカルのバンドではどれが最もイケていると思うかなどといった実に下らない話で飲み明かし、気持ちが悪くなって2階の窓からリバースした一晩の想い出が陽光にキラキラと照らされながら落下していく様を虚ろな瞳で眺めていた。
あの時に飲んでいたのは「やまや」で千円くらいで買えるバランタインの等級が最も低いものだったか、それとも近所の酒屋で買った芋焼酎の「さつま白波」だったかは失念したが、とにかくグワングワンする頭で「もうこんなもん、二度と飲まない」と激しい嫌悪感に苛まれた事だけは今でもよく覚えている。
一緒に飲んでいた高知県出身の男は将来は検事になりたいと言っていたが、今は何をやっているだろうか。立派な検事になっただろうか。
どうであれ、今はただただ当時の事が懐かしく思い出される。
さて、こうして自宅にやって来たバランタイン21年であるが、犬のお腹をナデナデしながらYou Tubeでお気に入りの配信者の犬の最新動画を視聴していた嫁さんに、香りを嗅がせてみた。
嫁さんはビールと赤ワインと白ワインとスパークリングワインと一通りのカクテルとサングリアなどのフレーバードワインくらいしか飲めず、度数がキツいウィスキーには露骨に嫌悪感を示すのが常である。
しかし、私が普段飲んでいるマッカランとオールドパーの良等級のものは「甘い香りがする」と言っており、以前バニラアイスに少し垂らして提供した際には「こいつぁ旨ぇや!」と激賞していたので今回はどうかと恐る恐る鼻先に差し出したところ「果物っぽい香り」という答えが返って来た。
たぶん、バランタインを飲むのは前述した時以来であり、またこのボトルの中身は私がまだ一般社員の頃に仕込まれたのだと考えると、どうにも不思議な気持ちになる。
350ml缶くらいのサイズのグラス一杯に氷をブチ込み、ミネラルウォーターの「森の水だより」で表面の霜を洗い落とす。一旦、水は切る。
お猪口1杯分くらいのバランタインをグラスに入れて、魔術儀式のようにぐるぐるぐるぐるとかき混ぜて冷やす。そこにお酒の4倍くらいの分量の水を入れて、またかき混ぜる。今度は先ほどよりも念入りだ。
回転軸がブレて来たのは疲れて来た証左である。適当なところで止める。溶けて減った分の氷を追加して、最後に香り付けでごく少量のお酒を垂らす。これで自己流の水割りの完成である。
デスクの上、PCモニタの右側に薄手のコルクのコースターを敷き、グラスを置く。
リストアップしていた中古機の価格と睨めっこしながら8月の入替と機械代を確定させ、9月中の予定も具体化させる。
経営者の我慢に対して、手抜きの無い遣り繰りとより早期の見通しの改善で応えたい。
今はただその一心で業務にあたっているところである。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません