今年の地域社会の夏の風景は、どのようなものになるか

『道成寺』について

格式高い伝統芸能であり、どちらかと言うと静的なパフォーミングアーツとしてイメージされやすい「能」であるが、その能舞台の天井の梁には、あるひとつの演目における極めて動的な一場面を効果的に演出するためだけに設えられた機構が存在している。

それは、滑車である。

神祇・釈教・恋・無常という流れ行く人の世の様相を主役・シテを中心に据えた最少人数の分業制によって表現する極めて異質な舞台芸術と言える能には、流派により前後するものの約200の演目があるとされる。

その中で、たったひとつ『道成寺』という演目だけがこの滑車を使用し、そこに吊り下げられるのは演目名からも推測できる通り ” 鐘 ” である。

これは作り物ではあるものの数十kgの重さがあり、道成寺の二つの見せ場の内、クライマックス的な場面である「鐘入り」において用いられる。

そしてもうひとつの見せ場は、やはり道成寺でしか用いられない「乱拍子」と呼ばれる特殊な技法が披露される場面である。

これは文字面だけ見ればさぞかし荒々しい動きによって演じられるものかと思う読者の方も多いだろうが、実際には小鼓の掛け声と打音と共にシテが特殊な足遣いをして、その場で爪先と踵の上げ下げや摺り足による体勢の変化によって演じられる静的なものであり、一体何を表現しているのか理解するには中国や日本において古来より「踏み締める」「決まった所作を繰り返す」という行為が示す意味に触れる必要がある。

能の研究・解説書籍等を紐解けば、乱拍子の歴史は古く平安期まで遡って考察し得るものであり、陰陽道の呪法のひとつである「反閇」(へんばい)を取り入れたものとする説がある。

これはごく端的に言えば ” 作法 ” であり、儀礼等の場において一定の法則のもと歩行したり強く足踏み等する事によってその行為の正当性を示したり悪霊調伏や祈祷等の効果を高めるような目的があると解釈出来る。

日本文化の様々な場面でこのような所作や考え方を垣間見る事が出来るが、例えば神道や陰陽道における厳粛な作法、相撲における四股や歌舞伎の飛び六方といったものも同じような意味合いを持っているのではないかという学術論文も存在している。

読者の中には、能をはじめとしたパフォーミングアーツのファンだという方はそれほど多くないだろうし、今までは興味も知識も無かったがこの記事で触れたからこの機会に少し調べてみようとか見に行ってみようとか、そこまでの意欲を喚起できるほどの筆力は私には無いため、道成寺のあらすじについては、ここでは言及しない事にする。

今年の夏の風景はどのようなものになるか

私が管理している店舗の近くには、神社がある。

パチンコ店と神社或いはお寺と言えば、業界内では大体は三重県におけるいわゆる「オールナイト営業」の所以について話題にする時くらいしか関係性が取り上げられる事は無いが、それ以外にもちょっとしたお付き合いみたいなものはある。

例えば、地域の社寺で神事・祭礼が執り行われたり、神楽や夏祭り、盆踊り等の催しがある際に金銭や日本酒等を寄進する、といった場合である。

自社では昔から定年になったベテラン社員等が嘱託社員として再雇用され、雑事のひとつとして店舗近くに用意してある社員寮の管理や地域社会との交流等の役割を担っており、社寺とのお付き合いにもそのような者が携わっていた。

会社・店舗として、直接的にも商店会を通じてでも時節ごとの様々な機会に寄進等により関わらせて頂き、例えば「お札」を貰って来た際には事務所の壁に貼ったりする訳だが、若造の時分は信心深くもなく験を担ぐタイプでもなかったので空間活用効率と本業重視で旧来の場所とは違うところに申し訳程度に貼ったところ、ひと世代上の先輩社員から「そこじゃない!」「ウチでは、これはここに貼るって決まってるの!」「バチがあたるぞ、お前!」等と厳しく叱責された事が懐かしく思い出される。

そんな私も、気付けば事務所に新たに神棚を造り土地神様をはじめ霊験あらたか とされる社寺のお札等を祀り、商売繁盛は勿論のこと社内の者や日々ご来店下さる地元民の方々の安全と健康を祈願する40代のオッサンになっていた。

コロナ禍により不幸にも散々な春を過ごす事になってしまった訳だが、気付いたらいつの間にやら6月に入って既に1週間が経過していた。

毎年6月30日に神社で執り行われる「夏越の祓」は、一年の前半の穢れを清め厄災を払うと共に、後半も平穏無事な生活が送れるようにと祈願する神事である。

古来より日本では、梅雨に入り夏の到来を窺うこの時期になると、気温・湿度・天候にも変化が生じる中で疫病が流行する事が多かったため、儀式のひとつとして「茅の輪くぐり」を行うようになったとされている。

この茅の輪くぐりは、境内に設営された茅の輪を所定の作法と順路でくぐり抜ける事により穢れや厄災を茅の輪に移し身を清め疫病にかからぬように祈願するというものであり、管理店舗近くの神社でも毎年行われているが、今年はどうなるだろうかと気掛かりである。

地域のそれ以外の社寺でも、いよいよ夏になればお祭りの縁日が出たり、お盆には盆踊り等の催しがあるが、地元の住民が集まって賑やかに開催できるようにと願うばかりである。

楽太郎

Posted by 楽太郎