①新型コロナは発展途上国へと拡大②再考を迫られる日本版IR【IRにまつわる動向:5月版】

新型コロナは新たなステージへ

 昨年末に中国で発症が報告された新型コロナウイルス感染症は、本年2月に主に中国で、3月にはイタリア、スペインなどのヨーロッパで、4月にはアメリカやイラン、トルコなどで感染爆発が起こりました。5月になると感染爆発は、ブラジル、ペルー、チリなど中南米、ロシア、そしてインドやパキスタンなどにも拡大しています。ドイツ、フランス、イタリア、スペインといった西欧諸国やオセアニア地域では、感染爆発は終息に向かいつつあるように見えます。しかし、ヨーロッパでもイギリスでは感染者数は拡大し続けており、国内に人種対立と深刻な社会集団間の格差を抱えるアメリカでは、主に貧困層で急速な感染爆発と対策の不均等が明らかになった結果、人種間の対立が表面化しています。

 新型コロナウイルス感染症に関して5月に起こったことは、「感染の発展途上国(あるいは貧困国)への拡大」であったと言えるでしょう。6月7日時点で感染者数は、アメリカ、ブラジル、ロシアの順で多くなっており、特にブラジルでは今後しばらく拡大ペースは鈍化しないと予測されています。そして今後は、アフリカ大陸において感染拡大が本格化する可能性が高くなっています。医療体制が十分ではなく、貧困層が社会の多数を占める発展途上国で、感染拡大を抑え込むことは容易ではありません。このことが、人類が「withコロナの時代を迎えた」と言われるゆえんとなります。

 抑え込みに成功した先進国でも、外国からの観光客誘致(インバウンド)を止めることはできません。モノ消費は飽和してしまっているために、観光に代表されるコト消費で貿易収支を黒字化して実体経済を駆動させるしかなくなっているためです。そして、特に発展途上国において新型コロナウイルス感染症はくすぶり続けるために、「コロナ前」の時代に戻ることは少なくとも短期的には不可能です。そのため、「withコロナ時代」におけるコト消費産業の「振る舞い方」が、編み出されていく必要があります。

日本版IRにコロナが迫る再考

 5月におけるIR関連のニュースで関係者を最も驚かせたのは、ラスベガス・サンズの日本市場からの撤退表明でした。あらためて言うまでもなく日本にとってアメリカは最大の同盟国であり、日本へのカジノを含むIRの導入は、アメリカの政権に強い影響力を持つカジノ事業者に日本市場を開放するためだという憶測があるほどに、日本政府はアメリカ政府に配慮しています。そしてアメリカの有力カジノ事業者であるラスベガス・サンズは、MGMが大阪への参入を表明していたこともあって、横浜もしくは東京のどちらかで首都圏のIRが開業するならばその事業者の最有力候補になるだろうと予想されていました。サンズが日本市場から撤退した理由を、日本政府の失策のためだけに帰着させるのは、日本政府に対して厳しすぎる見方でしょう。というのも、コロナの感染は冒頭で述べた通り世界規模で起こっており、観光に代表されるコト消費の落ち込みも、世界規模で長期にわたって続くと予想されているからです。

 コロナの影響でもうひとつ、IR関連の大きなトピックとなったのが、IR政策のスケジュール変更です。これまで(6月に入るまで)日本政府は、コロナの蔓延があっても「IRのスケジュールは変更しない」と繰り返してきました。サンズ撤退の報道を受けた5月13日の記者会見でもそうでした。ただ、本年1月には公表されるとされていたIRの政府基本方針は策定されていません。国会の質問主意書への回答においても、4月17日付(第162号)、同月28日付(第176号)、5月26日付(第196号)で繰り返し、スケジュールを変更しないと答えています。スケジュールを変更しない理由として挙げられていたのが、「地方自治体から変更の要請が出されていない」というものでした。中央政府がスケジュールを変更しないのであれば、地方政府は定められているスケジュールで進めていくしかありません。中央政府の方針をもとに地方政府は政策を進めていく、という構造が日本に根強く存在している以上、結果論となってしまいますが、日本政府は実情に合わせてスケジュール変更をできるだけ早い段階で行うべきであったのだろうと考えています。

 遅れているのは、国によるIRの「基本方針」策定です。そしてIR区域整備計画の提出期限を定める政令を閣議決定する必要があります。2018年7月27日に公布された「特定複合観光施設区域整備法(IR整備法)」は、「基本方針」の策定の期日を「公布の日から起算して二年を超えない範囲内」と定めています。そのため政府は、「基本方針」と整備計画の提出期限を本年の7月26日までに定める必要があるのです。その期日を変更するにはIR整備法の改正が必要です。あるいはコロナ禍の中でもこれらを閣議決定してしまう必要がありました。コロナ対策に追われ、内閣支持率が急落しつつある政権にとって、「IR疑惑」の記憶も生々しいこのテーマで強硬な政策運営を採るということは、政権崩壊の最後の一撃となり得る可能性さえ出てきたのではないでしょうか。

 大阪府・市、横浜市、和歌山県、長崎県のIR誘致を表明する自治体はすべて、実施法試案の制定作業や事業者選定(RFP)といった工程をできるだけ遅らせて対応してきました。ですが国は、地方自治体からの認定申請の受付期間を2021年1月4日から同年7月30日までとするスケジュールを変更できていません。「基本方針」策定の期限も残り2カ月弱にまで迫ってきました。6月に入ってからの動きとなりますが、政府が「基本方針」の策定を7月に先送りすると決定したと、6月4日付の「日本経済新聞」が伝えました。果たして7月中に「基本方針」は策定されるのか、注目です。そしてこの報道を受けて大阪市の松井一郎市長は同日、大阪のIRの全面開業時期がさらに1~2年遅れる見通しであると定例会見で伝えています。当初は2025年開催予定の万博前の開業を目指していましたが、すでに2027年3月までに後退させており、そこからさらに2028年から29年にまで遅らせたということになります

 世界レベルでは、コロナ禍の終息はまったく見通せません。そして世界規模で蔓延したコロナウイルスは、統合型リゾート施設やカジノといったランドベースの遊興施設が、そして観光が、国の振興政策として、さらには企業の「持続可能な」経済活動として有効なのかどうか、私たちに再考を迫っています。

寄稿者紹介

ひら・たいら氏

<プロフィール>

元ビジョンサーチ社『日刊遊技情報』の編集長(2006~2016年)という経歴を持ち全国のホール事情を長年にわたり俯瞰する一方で、ぱちんこ業界における依存問題および対策(レスポンシブル・ゲーミング)、ギャンブリング障害、IR動向等においては専門的な知識を有している、楽太郎の発信活動にとってのアドバイザーの一人。

オンラインサロン『パチンコを盛り上げるサロン』にスペシャリストとして参画している。