都内ホールの視点で、東日本大震災当時と新型コロナ禍を比較する

「きっと良い式になる」

2011年(平成23年)3月中旬、私は都内を電車で移動し、多くの人で混雑する池袋駅で乗り換え、そして大宮駅に到着し待合室で東京発 新潟行きの上越新幹線の到着時刻が来るのを待っていた。

夕刻だったからか顔や仕草に一日の疲れが見てとれる会社員男性、足下に大きな黒いバッグを置き談笑する老夫婦、眠っている子供を抱えて座る婦人とおそらくその連れ合いで傍に立ってTV番組を見ている同年代の男性。

私はそういった人たちと共に椅子に腰掛け、各ホームの状況が刻々と更新され続ける電光掲示板を眺めていた。

すると間もなくして、まるで駅そのものを巨大な何者かが鷲掴みにして引き抜こうとでもしたかのような非常に大きな揺れを足元から感じ、その場にいた人たちは「大きい!」「また余震か」「これは、5はあるんじゃないか?」などと一斉に声を上げた。

その直後、TV画面に映し出された ”震度5強” という文字を隣に居た老夫婦と一緒に眺めながら「電車はどうなるのかね、乗ってる時にまたこれくらいのが来たら、ちゃんと止まってくれるかね」「毎日毎日怖いですよね」などと会話を交わした。

待っていた新幹線・MAXとき は、10分ほど到着が遅れただろうか。

ホームに向かうべく席を立った私は、別に聞かれた訳でもないが何となく「僕は明日、結婚式にお呼ばれしてるんです、それで今から行くところなんです」と話し、「では、道中お気を付けて」と、短い間ではあったが共にその場に居合わせた二人に別れを告げた。

すると、旦那さんが、声は小さいが、まるで何か確信でも得ているかのような(或いは、自分自身に言い聞かせるかのような)はっきりとした口調と真剣な顔で、こう言った。

「こういう大変な時だから、きっと良い式になる」

翌日、果たしてその通り、結婚式は素晴らしいものになった。

強烈な余震とそこに居合わせた老夫婦。

披露宴会場への入場の際に新婦が手に持って現れた、すらりと伸びた真っ白なカラーのブーケ。

そして私自身以前から可愛がって貰い、何者に対しても向けられる謙虚さと老いてなお旺盛な好奇心・向学心から深く尊敬していた新郎の祖父が背筋をピンと伸ばして吹いた『ふるさと』のハーモニカの音色が、私にとっての東日本大震災の記憶として、今でもしっかりと残っている。

東日本大震災当時のホール景況と見通し

さて、本題に入りたい。

震災の直後、私が勤務する都内店舗においても、朝一から並んで開店待ちする若者層、日中の外回り営業の合間の息抜きで遊技する会社員層、低貸しコーナーで普段は長時間遊技する年配層のいずれも目減りし、平時であればまとまった客数で稼動が得られる人気機種や新機種コーナーにも空きが目立つような状況になった。

国内産業のマクロな視点では、総務省統計局による当時の『サービス産業動向調査』を参照すると、ホールが含まれる「生活関連サービス業、娯楽業」の3月の売上高は、昨年同月比で過去最大の下げ幅となっていた。

また、東京都産業労働局商工部調べによる当時の景況動向(下掲画像3点 ※赤色箇所は独自に追記)では、3月の数値が大きく凹んでいる事は勿論、向こう3カ月間の「見通し」の悪さを危惧する事業所が非常に多かった事が数値として現れており、特にそれは小規模事業所ほど顕著であった。

このような状況になった理由としては、当時ホールに張り付いて営業現場管理していた立場で考えると、第一に営業時間短縮と輪番休業、第二にホール側が広告宣伝や演出・装飾等を控えた事とユーザー側が気軽に遊技に興じられるような生活状態や環境ではなくなった事などを包括的に見ての「自粛ムード」が色濃く漂っていた事などが挙げられるかと思う。

では、ぱちんこ業界内でのマクロな視点では、震災の直接的なダウン幅はどのような数値に反映されているのかと言うと、これを正確に測定したり瞭然なかたちで提示するのは困難である。

その理由は、2009年に規則改正の経過措置期間が終了した事により、高純増・高継続ATとストックに代表されるタイプ機が席巻した4号機時代がついに終焉を迎え、5号機時代へと完全移行した事が大きく関係している。

当初はメーカー側もホールにとって営業貢献度がありユーザーにとって面白味がある新機種の開発販売に苦慮したという事情もあってか、警察庁による『警察庁風営白書』や『レジャー白書』等の資料でも参照し得る通り、2009年以降は業界の市場規模を測る際のひとつの指標である「売上高」は右肩下がりのグラフを描き、それは今に至るまで継続している。

最もインパクトがあるダウン幅は「遊技人口」であり、4号機時代後期には約1,700万人水準にあったものが2011年には1,260万人まで急落したが、ではこれが震災によりホール側が様々な自粛や休業等の施策をとったからなのか、ユーザー側に自粛ムードが漂ったからなのかと聞かれれば、影響はあったかも知れないが直接的な原因としては遊技機性能の低減の方にそれを求める分析の方が妥当であると推察する。

敢えて、震災だったから当年の数値だけが凹んだ、と示すのであれば、先に挙げたレジャー白書において確認できる売上高が前年の2010年では25兆9,830億円、当年の2011年では25兆4,890億円に低下し、翌年の2012年では若干上昇し25兆6,720億円となりその後は下がり続けている事と、業界を俯瞰する際に多くの業界人が参照しているダイコク電機やフィールズその他メーカー試算による年別業界分析系の資料によると、年間総粗利金額が前年2010年では4兆円水準、当年2011年では3.8兆円に低下し、翌年2012年では若干上昇し4兆円水準となりその後は前述の売上高と同様に下がり続けている事から、これは震災によるものだ、と言って良いのかも知れない。

また、震災当時の事を語る際に業界人が必ず話題にするのは、電力消費におけるピークカットの取り組みである。

熾烈な揺れと最大級の津波に晒された結果、福島原発の発電および送電機能が失われた事により、東京電力では管区内のカバー力が低下し、また当時の東京都知事であった石原氏による電力消費の戦犯扱いも影響してか、特に都内ホールにおいては省電力の意識が高まっていた。

都遊協では都内ホールを7つのグループに分け、7~9月の夏季期間に毎日1つのグループが必ず休業するという施策をとった。

これにより、毎日全店舗が営業している時と比較して、輪番休業期間中は店舗数を元にした単純計算上では14%以上の消費電力量カットとなる(実際には、設置台数や店舗面積などの営業規模に大差があるため数値は上下する)ようにした上で、これに空調設備をメインとした日々の営業での様々な節電の合計値である約10%と合わせて大幅なピークカットになるように努めており、例えば自動車業界においては木・金曜に製造ラインを止めて土・日に操業する等の施策をとった他産業の取り組みと比較しても遜色ない、25%という高水準の節電を実現した。

このような事に加えて、警察庁が発出したいわゆる広告宣伝規制と業界側がより厳しく策定したガイドライン、また総付景品規制等により従来のように遊技意欲を激しく煽ったり来店・遊技にあたりポイントというかたちでメリットを付与するような営業手法がとり難くなり、ユーザー最前線の現場であるホール関係者の中には前年同月との比較上や、また今後の見通しに対して、不安感を抱えながら過ごしていたというのが震災当時の状況であった。

新型コロナ禍におけるホール景況と見通し

次に、今般の新型コロナ禍の状況について見て行きたい。

まずは、前段と同じく、東京都産業労働局商工部調べによる直近の景況動向(下掲画像3点 ※赤色箇所は独自に追記)を参照する。

震災時との比較上では、マイナス影響は現在進行形でより大きく、また今後の見通しに不安を抱えている業種・事業所が幅広く、その数値の度合いもより大きい事が見えて来る。

4月初旬における政府による緊急事態宣言と、それを受けての東京都の緊急事態措置としての自粛・休業要請の影響が直撃した感があり、特にそれは政府ならびに都知事が「不要不急」「3つの密を招く(可能性が高い)」等と位置付けた業種の数値に見てとれる。

更に細かく見れば、3つ目の画像の左下表における事業所規模が「小規模」に分類されるところの、「今後3ヵ月間の見通し」の前年同月比「売上高」のマイナスポイントが非常に大きくなっている。

これはそのまま、休業要請期間における固定費負担と、都内では未だ数十人規模の感染者が発生し警戒を要する厄災として扱われている事から来店型の営業スタイルが基本である事業所では以前と同等の客数まで回復する見込みが立たない事、そしてこの先も「東京アラート」と呼称される警戒態勢が敷かれ場合によっては再び休業要請が出されたり、未だ公的には休業要請が継続している業種の事業所が正規に営業を再開するのが更に後ろ倒しになるのではないかという懸念が、見通しの悪さとして数値に現れて来ていると言える。

このような状況でそれほど法人経営・店舗運営上のダメージを受けず、また先々の見通しが良い或いは悪くはないという業種はそれほど多くはなく、敢えて挙げるならば前掲の2つ目の資料に見える業種区分別の数値や、財務省が6月1日に公表した『四半期別法人企業統計調査(令和2年1~3月期)』速報の業種別数値、或いは総務省統計局が5月29日に公表した『サービス産業動向調査』等で窺える限りでは、生活に必要なものである食料関連、感染拡大防止や新しい生活様式に関わると目される業務用機械、また不動産業や電気業等で横ばいや伸長の数値が出ているのが目に付くくらいであった。

では、このコロナ禍において都内ホールがどのような状況にあるのかと言えば、既に各種報道でも街中の様子でも周知の通り、都政・都知事の休業要請を無視して勝手に営業を再開させてしまっている店舗数が5月末時点で9割を超えている、というのが現状である。

このような状況に至った経緯や事情については、先日公開させて頂いた記事で言及しているため、詳細は割愛するが、問題は目下の営業状況である。

この営業状況について、5月末から6月初旬に掛けての稼動と感染拡大防止対策の実施の様子について、都内で現場管理している立場でごく掻い摘んでではあるが紹介したいと思う。

まず、稼動であるが、結論としては、都による休業要請に応じず立ち入りを受けたり施設名公表されても構わずに4月最終週まで営業していたりGW明け早々から営業再開する事によりユーザーとの接点を保った(休業期間が短かった)店舗や、機種キャラクター誕生日や旧イベント日等の日程上の理由でユーザー側が勝手に期待する事で適当に集客できるごく一部の店舗のみ、一見して専業層が多めに集う事により平時から5割程度の集客が出来ていると言える。

では、それ以外の店舗はどうなのかと言えば、これには自社店舗も含まれるが、大多数の店舗においては平時の稼動は2~3割程度である。

つまり、ホール側には早期の営業再開の必要性があったが、肝心のユーザーには早期に遊技を再開するだけの生活状況や条件が整っていない、或いは遊技から長く離れた事により生活における様々な物事における優先順位や価値観の変化が生じたためホールに足を運んでいない、という事が窺える。

ユーザー事情について考察する際には、趣味打ち層なのか専業層なのか、会社員なのか年金生活者なのかフリーター層なのかといった具合いに属性別に細かく見て行く必要がある訳だが、例えば専業層であれば趣味打ち層による「養分稼動」が少ない分だけリターン期待値が高い状態の台を拾いにくいため稼動減になっていたり、生活習慣のひとつとしてホールに通っていたりする会社員層や趣味打ち層は直近の給料が減ったり十分な日数の勤務シフトを組んで貰えなかったり、先々の賞与等も含めて考えると可処分所得ひいてはパチンコスロット遊技に使用できる金額について不安感を抱えている事が、早期に遊技を再開出来ない原因になっているものと推察する。

そして、そういったユーザーを相手にしながら営業再開後の状況を眺めているホール側の立場としては、前掲資料における見通しの悪さが示す通り、いつになれば緊急事態宣言が発令される以前の営業数値まで回復してくれるのかという不安感を抱えながらの店舗運営になっている、というのが実情である。

次に、目下の感染拡大防止対策の実施状況についてであるが、都遊協として最低でもこの程度の対策は講じた上での営業なら再開を黙認する、というガイドラインはあるものの、開店待ちや賞品カウンター等における並びへの対処と適当な台間隔の確保、この2点が徹底出来ていない店舗が目に付くように思う。

例えば、特定日が強い店舗の開店待ちが混雑してそれがTV等で報道されパチンコ店への風当たりが再び厳しいものになったり、稼動台数の間引きや飛沫遮断用のボード・ビニールシート等の対策がしっかりと出来ていない店舗において不幸にもついにクラスターが発生してしまう、というような事態に陥る事を、私としては非常に恐れている。

同業の立場では、間引きと飛沫遮断の施策は、それを徹底する事でいかにもなかたちで自粛ムードが漂ってしまったり、飛沫遮断ボード・シートがずらりと並ぶ事により何となく着席しにくい雰囲気になったり玉・メダル貸出機に紙幣挿入する際や遊技中に邪魔になったりするため、理想論としてユーザーが対策に安心してくれて稼動が回復する、というよりは、現実ではやればやるほど営業上のマイナスになる可能性が高い施策である事は十分に理解している。

それでもやはり、世間からの見られ方を意識しクラスター発生リスクを低減するために、少なくとも東京都が正式に休業要請を解除するまでは、適正な台間隔の確保と飛沫遮断に最大限努めるべきであると考えている。

結び

以上、東日本大震災時とコロナ禍における都内ホールの様子について、簡単に比較しつつ述べて来た。

どちらもその発生や蔓延の影響を直接的に受けた直近月の調査数値が大きくダウンしているのは勿論だが、今般のコロナ禍はやはり前例がない規模と期間で強力に実施された行政による休業要請の影響によって更に低い水準になっており、また無症状での潜伏期間が長い新型コロナの脅威に晒されている今回の方が「今後3カ月間の見通し」が悪い。

そして震災は、その後の長きにわたり岩手・宮城・福島県等に大きな傷跡を残しはしたがその他の都道府県においては大きな影響は数か月間のみであったが、コロナにおいては人の移動が再開される事による第2波の可能性があるため営業面では年単位でマイナス影響が継続するのではという懸念があるという点で、今回の方がホール側にとって危機感が強いと言える。

早いもので、来年は震災発生から10年である。

その2021年の3月、東京では桜の季節にあたるが、コロナの状況は一体どの様なものになっているだろうか。

業界人の皆さん、ユーザーの皆さんと共に苦境を乗り越え、不要不急の余暇を存分に楽しめる日々がなるべく早く戻って来る事を祈っている。

楽太郎

Posted by 楽太郎