①コロナ禍の拡大②大阪のIRスケジュール遅延と横浜・和歌山の動向③視界不良となった日本版IRの未来【IRにまつわる動向:3月版】

コロナ禍の拡大

 「新型コロナウイルス感染症」(以下、新型コロナ)の社会的、経済的な影響が拡大しています。すでに、社会的には「コロナ禍」、経済的には「コロナ・ショック」と呼ぶべき状況へと至りました。このコロナ禍は当初、中国・武漢で感染爆発が起こったため、「チャイナ・リスク」の一側面であると見なされていました。ですがコロナは、イタリアなどのヨーロッパへ拡大、さらに4月上旬の現時点ではニューヨークなどのアメリカで感染爆発が起こっていると伝えられています。多くの国々が、外国への渡航と外国からの入国を制限しています。ほとんどの貿易が世界規模でストップした状態にあるため、経済活動の様々な側面にマイナスの影響を与え続けています。とりわけ急成長をしていた観光産業の損失は、拡大の一途をたどっています。


 今夏に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックの1年延期が決まりました。現在すすめられつつある国と地方自治体によるIR整備のスケジュールもストップし、遅延しています。国は、年が明けてなるべく早い時期に、IRについての基本方針を決定する予定としていました。このタイミングで、コロナ禍は直撃しました。国民感情としては、「新型コロナ対策が最優先されるべきであり、IRどころではない」というところではないでしょうか。またIRの事業者として、海外でカジノを運営しているカジノ事業者が想定されていますが、コロナ禍のためにその海外カジノ事業者が容易に日本へ入国できない状況にあります。

大阪のIRスケジュール遅延と横浜・和歌山の動向

 このような状況を踏まえて大阪府・大阪市(以下、大阪)は3月27日、IRのスケジュールを3カ月遅らせることを決定しました。IR事業者からの提案審査書類の提出期限を、これまでの4月頃までから7月頃までに先延ばししたのです。大阪はこれまで、IRの開業時期として2025年に予定されている万博の開催前を目指していました。万博とIRの予定地は使われずにいた埋め立て地の夢洲であり、夢洲への公共交通の整備を一部、IR事業者に負担させようと目論んでいたためです。ですが今回のスケジュール変更において、開業時期については事業者の提案に委ね、「開業時期に関する提案内容については評価の対象とはしない」と定めています。その結果、「では2025年の万博開催までに夢洲への公共交通の整備をどう算段するのか」という問題が、新たに浮上することになりました。


 横浜のIR計画も、新型コロナの影響を受けています。横浜市は新型コロナの蔓延まで、市内の各区において順次、IRについての住民説明会を実施していましたが、現時点では予定されていた説明会は中止となっており、再開の目途は立っていません。とはいえ、横浜市がこの3月、IRに関する政治的な動きを止めていたわけでは、決してありません。前回のレポートですでに述べましたが、3月4日に「横浜IR(統合型リゾート)の方向性(素案)について」と名付けた文書を公表しています。IRの方向性を示したこの文書は、これから公表されることになるはずの募集要項の前段階となるものです。さらに横浜市議会は3月24日、令和2年度の一般会計予算案を可決したのですが、その予算にはIR事業者の誘致に必要な調査費などとして4億円が盛り込まれていました。


 新型コロナが、横浜市のIR計画に及ぼした影響は、必ずしも悪いものばかりではないのでは、という見方も出ています。地理的に横浜市の最大のライバルとなる自治体は東京都です。東京都は今夏に予定されていたオリンピック・パラリンピックの終了後に、IRの政策化と事業者の誘致を本格化させるものと見られていました。オリンピック・パラリンピックが1年順延したことによって、東京都のIR政策でもそれだけの遅れが出るのではないかという見方が浮上しているのです。


 新型コロナ感染拡大の重大局面にあった3月中にIRの政策化を着々と進めていたのは、横浜市だけではありません。和歌山県は30日、「和歌山県特定複合観光施設設置運営事業募集要項」を公表しました。和歌山県はこのなかでIR政策のスケジュールを、提案審査書類の提出期限を本年8月末まで、開業を2025年春頃と記載しています。

視界不良となった日本版IRの未来

 2016年末よりIR政策に本腰を入れてから安倍政権はこれまでに、森友問題、桜を見る会、IR汚職と、大きな政治的危機をくぐり抜けてきました。その結果、日本版IRは着実に実現へと近づきつつありました。ですが今回の新型コロナは、世界的な規模で発生し、その感染規模を日増しに大きくしており、「これまでの政治危機とはレベルが違う」という印象を受けます。新型コロナが日本の社会と経済に与える被害は甚大です。そのため、日本版IRの将来性については、直近の数カ月の間にまったく見通せないものとなりました。今後、イタリアやアメリカで起きたような規模の感染爆発が日本でも起これば、国民による決定的な政権批判を惹起しかねません。国が新型コロナへの対策に並行してIR政策をすすめることができるのかどうか、はなはだ不透明な状況にあります。政権交代があっても日本版IRはすすめられるのかどうか。そのような可能性は、どう見積っても低いと判断せざるを得ないのではないでしょうか。


 また、前節でも触れましたが、IR事業者として主体的な役割を果たすことが期待されている海外のカジノ事業者、特にラスベガスに拠点を置くアメリカのカジノ事業者が、この新型コロナによって経済的な損失を被っており、その額は累積しています。報道によれば、ネバダ州知事は「生活に必要なビジネス以外の全営業の停止」を命じ、アメリカゲーミング協会(AGA)はアメリカにある全465の商業的カジノが3月25日の正午をもって営業を停止したと報告しています。仮に今後、コロナ禍が終息したとしても、その時にアメリカのカジノ事業者に、日本版IRへ出資する余力が残っているのかどうか。


 新型コロナという未曽有の世界的な危機を前にしては、早期にその世界的感染爆発が終息することを願うことしかできません。

寄稿者紹介

ひら・たいら氏

<プロフィール>

長年にわたり、ぱちんこ業界に携わっている業界人。

特に、ぱちんこ業界における依存問題対策、ギャンブリング障害、IR関連の動き等においては専門的な知見を持つ、楽太郎にとっての重要な情報提供者の一人。